戦争犯罪による受刑者の赦免に関する決議

戦争犯罪による受刑者の赦免に関する決議

「戦争犯罪による受刑者の赦免に関する決議（せんそうはんざいによるじゅけいしゃのしゃめんにかんするけつぎ）」は、1953年（昭和28年）8月3日に日本の衆議院本会議において賛成多数で採択された重要な決議です。

この決議案は、当時、衆議院の海外同胞引揚及び遺家族援護に関する調査特別委員会の委員長を務めていた山下春江議員によって提案されました。そして、当時の主要な政治勢力であった自由党、改進党、右派社会党、左派社会党、さらには無所属倶楽部がこの提案に賛同し、共同で提出されました。

議決に際して、日本国内の主要な政党が賛成票を投じる中で、ただ一つ、労働者農民党のみが反対の立場を表明しました。一方、当時の日本共産党は、1952年に行われた第25回衆議院議員総選挙の結果、議席を失っており、党として公式な意思表示を行うことが困難な状況でした。

決議の背景

この決議が生まれるに至った背景には、当時の日本を取り巻く国内外の状況がありました。1952年（昭和27年）4月、サンフランシスコ平和条約の発効により、日本は連合国による占領を終え、主権を回復しました。

主権回復後、極東国際軍事裁判（東京裁判）などによって戦争犯罪人（いわゆる「戦犯」）として刑に服していた人々について、その早期釈放を求める国民的な運動が日本国内で急速に高まりました。この運動には、様々な団体や個人が関与し、広範な支持を集めました。

このような国民的な動きと連動して、日本弁護士連合会も政府に対し、「戦犯の赦免勧告に関する意見書」を提出するなど、法曹界からの働きかけもありました。こうした国民各層からの声が結集した結果、戦争犯罪人の釈放や減刑を求める署名運動は、日本国内で実に4千万人に及ぶ規模にまで拡大しました。

こうした国民的な世論の高まりと運動の広がりを受け、日本政府は対応を迫られることとなりました。政府は、サンフランシスコ平和条約の第11条に規定された条項に基づき、同年10月までに、連合国各国に対し、日本の戦争犯罪人に対する赦免または減刑を勧告しました。本決議は、こうした政府の動きを後押しし、国内的な合意形成を示すものとして位置づけられます。

審議経過

この決議案は、その重要性から、衆議院の特別委員会において度重なる慎重な審議を経て本会議に上程されました。

具体的には、1953年5月29日から8月3日に至るまでの期間、衆議院海外同胞引揚及び遺家族援護に関する調査特別委員会において集中的な審議が行われました。さらに、内閣委員会や厚生委員会との連合審査会、さらには公聴会も開催されるなど、幅広い視点からの議論が尽くされました。これらの審議を経て、最終的に8月3日の衆議院本会議で採決され、可決に至ったのです。

過去の類似決議

実は、本決議より前の1952年（昭和27年）12月9日にも、田子一民議員らによって提案された「戦争犯罪による受刑者の釈放等に関する決議案」が衆議院で一度可決されています。この決議も、同様に戦争犯罪人の釈放や減刑を求める趣旨のものでした。

1952年の決議案に関する衆議院での討論では、多くの議員が賛成の立場から演説を行いました。しかし、この時も労働者農民党の館俊三議員が反対討論に立ちました。館議員は、この決議案が「サンフランシスコ平和条約に基づく単独講和体制を既成事実として固定化し、それを正当化するためのものだ」と強く批判しました。そして、今もなお刑に服している人々には同情を禁じ得ないとしつつも、そのような意図を持つ本決議案には断固として反対すると主張したのでした。

1953年の決議は、こうした過去の議論や、高まり続けた国民的な世論、そして政府による具体的な動きを背景に、改めて議会の意思として示されたものと言えます。

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