戦場でワルツを

映画『戦場でワルツを』

『戦場でワルツを』は、2008年に公開されたアリ・フォルマン監督のアニメーション映画であり、1982年のレバノン内戦に関する彼自身の記憶を掘り下げたドキュメンタリー作品です。アニメーションで描かれるこの映画は、イスラエルの兵士の視点を通して、戦争のトラウマや記憶の喪失、そして戦争が個人に与える影響を問いかけます。この作品は、同年に公開された他のアニメーション映画とともに、イスラエルの長編アニメとして注目を浴びました。

映画は、2008年の第61回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で初めて公開され、その後、多くの映画祭で賞を受賞しました。特に、ゴールデングローブ賞やセザール賞の外国語映画賞を受賞し、アカデミー賞にもノミネートされるなど、評価が高まりました。また、日本では2009年に劇場公開され、その際には『バシールとワルツを』として上映されました。

あらすじ

物語は、19歳のイスラエル国防軍の歩兵だったアリ・フォルマンが、戦争の悪夢に悩まされる姿から始まります。2006年に彼が再会した友人から、レバノン内戦当時の体験について語られたフォルマンは、自分自身の記憶が失われていることに気づきます。彼は、サブラ・シャティーラの虐殺の夜のビジョンに苦しむ中で、自身が何をしたのかを思い出そうとします。

フォルマンは、心理学者の友人の助言で、当時の記憶を持つ他の人々との対話を始めます。彼は再び戦友や当時レバノンにいたジャーナリストとの対話を重ね、その過程で少しずつ記憶を甦らせていきます。映画の終盤では、彼が虐殺の夜の詳細な記憶を取り戻し、その記憶がアニメーションから実際のニュース映像へと切り替わることで、観客に深い衝撃を与えます。

キャスト

作品には実際の人物が本人役として登場し、アリ・フォルマン本人を演じるほか、当時の仲間たちや関係者が登場します。彼らは、自らの記憶や体験を語り、映画にリアリティと深みを与えています。主演のアリ・フォルマンには、てらそままさきが声をあてているほか、他のキャストも多彩な声優陣が揃っています。

制作の背景

『戦場でワルツを』は、その制作に4年をかけ、長編アニメーションとして新しい表現形式を確立しました。フォルマンは、実写を基にしたロトスコープ技法を用いず、Adobe Flashと古典的なアニメーション手法を組み合わせて独自のビジュアルスタイルを生み出しました。音楽に関しては、ポストクラシカルの作曲家マックス・リヒターによるサウンドトラックをはじめ、さまざまな曲が効果的に使用されています。

この映画は、そのビジュアルと音楽の融合により、戦争の緊迫感や悲惨さを伝えることに成功しています。特に、アニメーションと実写映像のコントラストが、観客に強い影響を与えています。

評価と反響

映画は広く評価され、特に批評家たちからは「挑発的かつ感情的な作品」として高く評価されました。しかし、イスラエル国内では商業的な成功が限られている一方で、海外では多くの熱心な支持を受けました。特に、劇中の描写が現在の政治状況とも重なり、さまざまな議論を呼んでいます。

映画内でのナチスやホロコーストとの比較は特に物議を醸し、さまざまな見解を引き出す要素となりました。また、レバノンでは上映が禁止される中で、上映を求める運動も起こり、話題を呼びました。

結論

『戦場でワルツを』は、戦争と記憶の複雑な関係を探求する作品であり、アニメーションという形式を通じて深いメッセージを伝えています。アリ・フォルマンの辛辣でありながら詩的な視点が、多くの観客に影響を与えるこの映画は、今後も議論の的となり続けるでしょう。

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