戴綸

戴綸（たい りん）

戴綸は、明代に生きた官僚であり、その生涯は波乱に満ちたものでした。彼の生年は不明ですが、1426年に亡くなったことが記録されています。本貫は膠州高密県です。

生涯

戴綸は、1412年（永楽10年）に昌邑県訓導という役職から、礼科給事中という重要な地位に抜擢されました。この頃、彼は翰林院編修の林長懋とともに、皇太孫であった朱瞻基に近侍し、書を講じる役割を担いました。

永楽帝は、朱瞻基に武術の稽古を奨励しました。朱瞻基自身も武芸を好んでいたため、しばしば狩猟に出かけることがありました。しかし、戴綸と林長懋は、朱瞻基が成長期にあることを鑑み、学問を疎かにして遊興に耽ることを憂慮しました。そこで、二人は機会があるごとに朱瞻基に諫言をしました。戴綸は、この件について永楽帝にも上奏しました。

ある日、永楽帝が朱瞻基に「宮臣の中で誰が気が合うか」と尋ねたところ、朱瞻基は戴綸の名前を挙げました。しかし、永楽帝が戴綸の上奏文を朱瞻基に見せたことで、朱瞻基は戴綸を恨むようになりました。この出来事が、後の戴綸の運命を大きく左右することになります。

1424年（永楽22年）4月、戴綸は左春坊左中允に任命されました。同年9月には右諭徳に昇進しました。10月に朱瞻基が皇太子となると、戴綸は司経局洗馬に転じ、引き続き朱瞻基に近侍して講読を担当しました。

1425年（洪熙元年）6月、戴綸は行在兵部右侍郎という役職に任命されました。しかし、宣徳帝（朱瞻基が即位）が遊興に耽ることを諫めたことが、皇帝の怒りを買うことになります。7月、戴綸は交趾へ派遣され、参賛軍務を任じられることになりました。これは、実質的に戴綸を都から遠ざけるための措置であったと考えられます。

1426年（宣徳元年）、戴綸は逮捕され、北京に連行されて錦衣衛の獄に投獄されました。宣徳帝の取り調べに対し、戴綸は自身の正当性を主張し、帝の怒りをさらに増幅させました。その結果、戴綸は立ったまま鞭打たれて死に至り、家財は没収されるという悲劇的な最期を遂げました。

戴綸の生涯は、忠誠心と諫言が必ずしも報われるわけではないという、歴史の教訓を我々に示しています。彼の死は、皇帝の怒りがどれほど恐ろしいものであり、時に忠臣をも無慈悲に葬り去る力を持つことを物語っています。

脚注

参考文献

* 『明史』巻162 列伝第50

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