戸川貞雄

戸川貞雄（とがわ さだお）について

戸川貞雄は、1894年12月25日に東京の本郷で生まれました。幼い頃から父の仕事の都合で台湾に移住し、その後も静岡や名古屋などを転々としました。彼は静岡県立静岡中学校で学び、その後早稲田大学文学部英文科に進学します。在学中から作家としての活動を開始し、卒業後は東京社で編集者として働きました。しかし、その後作家としての道を歩むことを決意し、1921年に小説『蠢く』でデビューを果たしました。

1922年には平塚市に移住し、作家活動を続けながら数々の短編作品を手がけました。戦前から戦後にかけての活躍は、私小説や社会問題をテーマとした作品が多かったものの、戦後には捕物ものに転向し、特に人気を博しました。彼はまた、東京作家クラブの初代会長としても知られています。

政治活動

戸川は1955年に平塚市長選に出馬し、文化人としては珍しく当選しました。彼は「文人市長」として市政に携わり、戦後の復興や財政の健全化、そして文化財の保護などを推進しました。特に七夕祭りの市営化や、湘南平の命名など、地域の文化振興にも貢献しました。また、再選直後には「競輪悪妻論」を展開し、競輪の存続を訴えました。

彼の持論は、「政治とは政（まつりごと）であり、政はお祭りに通ずる」というもので、政治活動を通じて市民との結びつきを深める姿勢が評価されました。しかし、彼は再選直後から「3選不出馬」を公約として掲げ、1963年に市長職を後任に譲りました。

家族と私生活

戸川の家族の中では、イタリア文学者の実弟岩崎純孝や、作家として知られる妹戸川静子がいます。長男と次男も読売新聞社で記者として活動していました。1980年代前半からは歴史編纂に従事し、余生を過ごすことになりますが、1974年に平塚市内の病院で狭心症により79歳で亡くなりました。

競輪悪妻論

戸川市長は競輪場の廃止を公約に掲げていましたが、当選後はその方針を転換しました。競輪を「悪妻」と例え、「悪妻とはいえ働き者である」として続行を訴えました。国会での発言が話題となり、「競輪悪妻論」という形で広まったこの発言は、彼の作家としての才能を活かした意見表明でもありました。

以降、平塚競輪場は市の重要な財源となり、現在も大きな売上を記録しています。"

代表作

戸川は多くの作品を残しており、特に短編小説において独自の世界観を展開しました。主な著書には『蠢く』や『春画』、また『市長の椅子 作家市長奮戦記』などがあります。彼の作品は当時の社会情勢や人間のリアリズムを描き、多くの読者に愛されました。現在ではその多くが入手困難と言われていますが、彼の影響力は未だに残っています。

戸川貞雄の人生は、作家、政治家としての二つの顔を持ち、彼自身の経験と視点で社会を見つめ続けました。彼の足跡は、今もなお多くの人々に夢と現実の交差点を提供しているのです。

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