戻し交配

戻し交配（backcross）とは

戻し交配は、交雑によって生まれた雑種、またはその子孫に対して、元の親系統のどちらか一方を再び交配させる手法です。これは、ある生物が持つ特定の遺伝的特性を、その特性を持たない別の生物に取り込むために行われます。この技術は、育種（品種改良）において重要な役割を果たしており、特に連続して戻し交配を行うことで、目的の遺伝的背景を持つ品種を作り出すことが可能です。複数回の交配を繰り返す場合は、連続戻し交配（Linebreeding）と呼ばれます。

戻し交配のプロセス

戻し交配では、導入したい特性を持つ親を「一回親」、その特性を持たない親を「反復親」と呼びます。まず、一回親と反復親を交配させて雑種を作ります。次に、この雑種に対して反復親を交配させます。この交配を繰り返すごとに、雑種は反復親の遺伝的背景に近づいていきます。各世代において、目的の特性を持つ個体を選抜し、次の戻し交配に進める必要があります。

導入する特性が優性遺伝子によって支配されている場合は、交配の各世代で表現型によって選抜することができます。しかし、劣性遺伝子によって支配されている場合は、表現型に現れないため、自家受粉や近親交配を行い、遺伝子が保持されているかを確認する必要があります。

DNAマーカー技術の利用

1990年代以降、DNAマーカー技術が発達し、連続戻し交配において特性（遺伝子）を選抜する手法が利用されるようになりました。DNAマーカーと遺伝子が密接に連鎖している場合、遺伝子の優性・劣性に関わらず、形質発現を確認せずに選抜を行うことができます。この技術によって、育種効率が大幅に向上しました。

戻し交配の応用

戻し交配は、同一種内だけでなく、異なる種間や属間でも行われます。例えば、野生種が持つ耐病性遺伝子を栽培品種に取り込む際に用いられます。直接の交配が難しい場合は、橋渡しとなる親を介して戻し交配を行うこともあります。

戻し交配で導入される特性の例としては、耐病性遺伝子、耐虫性遺伝子、雄性不稔遺伝子（細胞質置換）、稔性回復遺伝子などが挙げられます。連続戻し交配の回数は、交配の組み合わせや目的によって異なります。例えば、「ネリカ」は2〜4回程度の戻し交配で育成された品種ですが、「コシヒカリBL」のように5回以上繰り返される品種もあります。

参考文献

King R.C. and W.D. Stansfield 『遺伝学用語辞典（第4版）』西郷薫、佐野弓子(訳)、東京化学同人、1993年。（第6版2005年 ISBN 978-4807906291）
日本育種学会編『植物育種学辞典』培風館、2005年。ISBN 978-4563077884。
農業・生物系特定産業技術研究機構（編著）『最新農業技術事典 』農山漁村文化協会、2006年。ISBN 978-4540051630。

関連項目

交雑
* コシヒカリBL / ネリカ - 連続戻し交配で育成された品種群。

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