手事物

手事物（てごともの）についての詳細

手事物は、地歌、箏曲、胡弓楽において見られる楽曲形式の一つです。これは、器楽部分である「手事」を備えた楽曲を指し、特に地歌の中で広く演奏されています。箏曲では古典曲の過半数が手事物に該当し、胡弓楽では手事物とは呼ばれないものの、実際には曲の全体が手事物に当たることが多いです。

楽式構造

手事物の基本構造は「前唄 - 手事 - 後唄」の三段構成ですが、大曲になると「前唄 - 手事 - 中唄 - 手事 - 後唄」といった形になることも多いです。また、前唄に前奏部が伴なう場合もあり、全体として変化に富んだ展開が特徴です。例えば、前唄は通常、緩徐部分と早い部分に分けられ、短い間奏である「合の手」が挟まれることが一般的です。この合の手は大曲では複数回挟まれ、曲全体のリズムやメロディの変化を生かしています。
手事部分は「段」に分かれ、各段は拍数が等しく、変奏を楽しむことができる構成となっています。手事の最後には「チラシ」と呼ばれるコーダ的要素が加わり、ここで曲の気分が一旦散らされつつも、新たな盛り上がりに繋がります。なお、後唄は前唄に比べて短く、全体の締めくくりとしての役割を果たします。

歴史背景

手事物は元禄時代に発生したと考えられており、村上武士による『さらし』や、岸野二郎三の『六段恋慕』などがその初期作品です。当時はこれらが特定のジャンルとして区別されていなかったため、長歌の一部として扱われていました。その後、寛政元年に「古今集成琴曲新歌袋」が出版されることで、手事物という分類が明確になったと言われています。江戸時代中期には、大阪を中心に作曲が進み、手事物はより多くの作品が生み出されるようになりました。
京都では「京流手事物」としてさらに洗練された形で受け継がれ、重要な作曲家たちが活躍しました。宮城道雄の作品や、近代の作曲家による新たな作品でも手事物は取り入れられ、伝統を引き継ぎつつ現代においても愛されています。

音楽的な特徴

手事物の魅力は、声楽と器楽の両方を楽しむことができる点にあります。曲調は変化に富み、観衆を魅了する要素が散りばめられています。 米長流の長唄や他の音楽スタイルでも、手事物からの影響が見られるため、これらの音楽が相互に影響を及ぼしあっていることが窺えます。

結論

手事物は日本の伝統音楽において重要な位置を占める楽曲形式であり、器楽と声楽の調和がもたらす魅力によって、今なお多くの人々に愛されています。日本の音楽の中で、手事物の存在は一つの重要な文化遺産として、これからも受け継がれていくことでしょう。

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