手島右卿

手島右卿：独自の書風「象書」で世界を魅了した書家

手島右卿(1901-1987)は、20世紀を代表する日本を代表する書家の一人です。高知県安芸市出身の彼は、画家を志望していましたが、書の世界に魅せられ、独自の書風「象書」を確立しました。その生涯と業績、そして個性的な人物像を紐解きます。

黎明期と師事：伝統と革新のはざまで

右卿は、1915年、川谷尚亭に師事し書の世界に入門します。その後、師の逝去を機に上京し、比田井天来に師事、その才能を開花させました。大日本書道院展で頭角を現し、日展の参事や審査員、文部省指導書編集委員などを歴任するなど、書道界での地位を確固たるものにしていきました。

象書の創造：東洋と現代の融合

右卿は常に「書は人間の霊知の所産である」という信念を持ち、東洋的な精神性と現代感覚を融合させた独自の書風「象書」を創始しました。空海などの古法を基盤としながらも、革新的な表現を取り入れ、多くの書家たちに影響を与えました。小字数書の達人としても知られ、その繊細で緻密な作品は、観る者の心を深く捉えました。

国際的な評価：ブリュッセル万博と中国での展覧会

1958年、ブリュッセル万国博覧会「近代美術の50年展」に出品された作品「抱牛」は、最高殊勲金星を受賞。この快挙により、右卿の名は世界に知れ渡り、日本の書道芸術の国際的な評価を高めることに大きく貢献しました。その後も精力的に活動し、1985年には中国・北京革命歴史博物館で個展を開催、11万人を超える観客を動員するなど、その人気は衰えることはありませんでした。

教育者としての顔：後進の育成

右卿は、専修大学教授、日本書道専門学校初代校長として後進の育成にも尽力しました。片山子鶴など、多くの著名な書家を育成し、日本の書道界の発展に貢献しました。

個性的な人物像：酒と激しさ、そして繊細さ

右卿は、豪放磊落な性格で知られていました。「土佐いごっそう」の気質を体現するかのように、一度決めたら曲げない意志の強さと、酒好きで知られる一方で、作品からは繊細で緻密な表現が見て取れます。このギャップもまた、彼の魅力の一つでした。豊道春海らとの議論や口論も有名で、書への情熱の表れといえるでしょう。

書への哲学：「書は音楽でもある」

「書は音楽でもある」という右卿の言葉は、彼の書への深い理解を表しています。彼は、書に音楽のようなリズムや旋律を見出し、それを表現することに情熱を注ぎました。空海への強い憧憬を持ち、その書法を深く研究したことも、彼の書風形成に大きな影響を与えました。

晩年と遺産：日本の書道史に刻まれた足跡

晩年まで精力的に活動を続け、数々の賞を受賞、文化功労者にも選ばれました。彼の作品は現在も高く評価され、多くの書家に影響を与え続けています。手島右卿は、日本の書道史に燦然と輝く、偉大な書家として記憶されています。彼の作品、そしてその生涯は、これからも多くの人々に感動と示唆を与え続けるでしょう。

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