手洗鬼

手洗鬼（てあらいおに）は、江戸時代の奇談集『絵本百物語』に記述されている異形の存在です。同書において、彼は単なる妖怪ではなく、ダイダラボッチの一種として位置づけられています。

『絵本百物語』によれば、手洗鬼はその巨体をもって四国の海に現れ、3里（約12キロメートル）もの距離に連なる山々を軽々と跨ぎ越え、海で手を洗うとされています。挿絵に添えられた文章では、彼が手を洗う場所は具体的に讃岐（現在の香川県）の高松から丸亀へと続く湾であると示唆されています。この記述を現代の地図と照らし合わせると、手洗鬼は瀬戸大橋の全長を優に超えるほどの巨大な存在であったと考えられます。

妖怪探訪家・村上健司氏の調査によると、興味深いことに、『絵本百物語』以外に手洗鬼に関する伝承は確認されていません。しかし、手洗鬼の地とされる香川県には、別の巨人の伝説が息づいています。それは「オジョモ」と呼ばれる化け物に関するもので、オジョモは飯野山と青野山を跨ぎ、瀬戸内海の水を飲んだと伝えられています。飯野山の山頂には、そのオジョモのものとされる巨大な足跡が残されているという話もあります。また、飯野山と二子山を孫太郎という巨人が跨いだという伝説も存在し、これらの伝承は手洗鬼のイメージと重なり、地域に根ざした巨人伝承の一端を垣間見せてくれます。

手洗鬼の伝承は、『絵本百物語』という書物の中に留まり、地域に根付いた伝承として広く知られているわけではありません。しかし、香川県に残る他の巨人伝説との関連性や、瀬戸内海の風景と結びついた巨大なイメージは、人々の想像力を刺激し、語り継がれる要素を持っています。手洗鬼は、文献に記録された妖怪であると同時に、日本の各地に存在する巨人伝説の一例として捉えることができるでしょう。彼の物語は、妖怪という存在を通して、自然への畏敬の念や、人間の想像力の豊かさを示唆しているのかもしれません。

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