手紙 (ゴヤ)

フランシスコ・デ・ゴヤ作『手紙』について

フランシスコ・デ・ゴヤの『手紙』（別名『若い女性たち』）は、1814年から1819年頃に制作された油彩の風俗画です。この作品は、手紙を読む若い女性の姿を通して、当時の社会階級や人間関係を鮮やかに描き出しています。現在、フランス北部ノール県のリール宮殿美術館に所蔵されています。

作品の構成

絵画には、明るい日差しの下を歩く2人の若い女性が描かれています。手紙を読むために立ち止まっている女性は、黒いドレスに白い胴着を身につけ、エレガントなマンティーリャで頭を覆っています。強い日差しが彼女の顔と胸元を照らし、その後ろを歩く黒い服の女性が黄色い日傘をさして、彼女を日差しから守ろうとしています。手紙を読む女性の足元では、小型犬が後足で立ち上がって彼女に寄りかかり、気を引こうとしています。背景には、下女たちが水場で洗濯をしており、1人の男性がそのうちの1人に言い寄っている様子も描かれています。干された白い洗濯物が、画面の中央を走る線として構図を分割しています。

構図と様式

画面は洗濯物の白い線によって上下に分割されており、下部には洗濯女たちが黒い線で輪郭を描かれ、特徴が省略されています。対照的に、上部は青空が広がり開放的で、前景の2人の女性たちの顔と黄色い日傘が映えています。日傘の黄色は、青空の色彩と鮮やかなコントラストを生み出しています。

ゴヤの他の作品との関連性も指摘されており、リール宮殿美術館所蔵の『老女たち』とサイズがほぼ同じであることから、対作品である可能性も示唆されています。また、『老女たち』は元々『バルコニーのマハたち』や『バルコニーのマハとセレスティーナ』と同じ連作の一部として制作されたと考えられています。

作品の解釈

一見すると、この作品はマハ（当時のファッショナブルな若い女性）を描いた風俗画のように見えますが、同時に社会階級の存在を明確に示しています。一部の研究者は、手紙を読む女性に実在のモデルが存在すると考え、ゴヤと親密な関係にあったレオカディア・ソリーリャではないかと推測しています。また、女性の胸元が強調されていることから、誘惑の寓意である可能性も指摘されています。

作品の来歴

この絵画は、1825年にテロール男爵イジドール・ジュスティン・セヴランが、フランス国王ルイ・フィリップ1世のためにゴヤの息子ハビエルから購入しました。ルーヴル美術館のスペイン・ギャラリーに収蔵されましたが、その後、売却され、美術商を経て、初代ダリング・アンド・ブルワー男爵ヘンリー・ブルワーの手に渡りました。彼の死後、競売にかけられ、美術商のエドゥアール・ウォーネックによって購入され、リール宮殿美術館に寄贈されました。翌年には、同じくゴヤの『老女たち』も寄贈されました。

まとめ

ゴヤの『手紙』は、単なる風俗画としてだけでなく、当時の社会構造や人間関係を読み解くことができる作品です。明るい色彩と巧みな構図、そして登場人物たちの表情を通して、ゴヤの卓越した描写力と深い洞察力が窺えます。

関連作品

『バルコニーのマハたち』
『バルコニーのマハとセレスティーナ』
『老女たち』

参考文献

黒江光彦監修『西洋絵画作品名辞典』三省堂（1994年）

外部リンク

* [リール宮殿美術館]]公式サイト, フランシスコ・デ・ゴヤ『若者たち／手紙』[https://www.palaisdesbeauxarts.fr/en/work/young-women-or-the-letter

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