手絡

手絡（てがら）は、日本の伝統的な髪型である日本髪を結い上げる際に、髷（まげ）に巻きつけたり、間に挟み込んだりして用いる装飾用の布です。古くは髷かけとも呼ばれ、単なる飾りとしてだけでなく、髷の形状を維持したり、特定の髪型を表現したりする上でも重要な役割を果たしました。

手絡に用いられる素材は多岐にわたりましたが、多くの場合、美しい光沢と柔らかな風合いを持つ縮緬（ちりめん）が使われました。また、より高位の武士階級の女性が用いるものとしては、豪華な錦（にしき）が選ばれることもあり、身分や格式を示す要素ともなり得ました。時代が下り、明治時代になると、和紙を加工して作られた手絡も登場し、素材の選択肢が広がりました。

色彩についても、厳格な規定があったわけではありませんが、着用する人の年齢や立場に応じた傾向が見られました。若い娘や若奥様といった世代では、華やかさを演出するために、鹿の子絞り（かのこしぼり）などで装飾された赤や桃色といった明るい色が好んで用いられました。対照的に、年配の婦人には、無地の藤色（ふじいろ）や浅葱色（あさぎいろ）のような、落ち着いた上品な色合いが選ばれることが多かったようです。

手絡は、その用い方によって様々な日本髪のスタイルを生み出しました。代表的な手絡を用いる髪型とその使用例は以下の通りです。

お煙草盆（おたばこぼん）: 結い上げた髷の間に渡すように手絡を掛けます。
桃割れ（ももわれ）: 髷の中に手絡を入れ込み、その下部を左右に割って手絡を見せるスタイルです。
唐人髷（とうじんまげ）: 桃割れと同様に髷の中に手絡を入れ込みますが、こちらは髷の上下を割って手絡を見せます。
割れしのぶ（われしのぶ）: 唐人髷と同様に髷の中に入れ込み上下を割る髪型ですが、手絡をしっかりと固定するために鹿の子留めと呼ばれる特殊な簪（かんざし）が用いられることが特徴です。
結綿（ゆいわた）: 島田髷（しまだまげ）の折り返し部分を、手絡を用いて結び留めた髪型です。この髪型は、手絡で結ぶことに由来するため、もし手絡を使わずに同様の結び方をした場合は、「結綿」とは異なる名称で呼ばれます。
布天神（ぬのてんじん）: 結い上げた髷の外側、上下に手絡を掛けるスタイルです。手絡を用いない同型の髪型は天神髷と呼ばれ、手絡の有無によって区別されます。
割り鹿の子（わりかのこ）: 髪を固定するために用いる笄（こうがい）の下をくぐらせるようにして手絡を結びつける方法です。
三輪髷（みわまげ）・長船（おさふね）: この二つの髪型は形の上ではよく似ていますが、結う人の身分が異なりました。そのため、三輪髷では一般的に縮緬の手絡が、より身分の高い人が結う長船では錦の手絡が用いられることが多かったとされます。

このように、手絡は素材や色彩、そして用いられる具体的な髪型によって、その人の社会的な立場、年齢、またはその時々の状況を示す多様な意味合いを持つ、日本髪に欠かせない装飾要素でした。

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