折居彪二郎

折居 彪二郎（おりい ひょうじろう）

日本の近代生物学、特に鳥類学・哺乳類学の発展に大きく貢献した、稀代の鳥獣標本採集家。

1883年（明治16年）7月15日、新潟県に生まれた折居彪二郎は、若い頃に北海道へ移り住み、1899年に函館、1913年には苫小牧を拠点としました。

彼の採集家としての本格的なキャリアは、1906年（明治39年）10月に始まります。当時、大英博物館の嘱託採集員であったマルコム・プレイフェア・アンダーソンの助手を務め、日本各地や朝鮮半島中部で標本収集に従事しました。

この経験を皮切りに、1936年（昭和11年）までの約30年間にわたり、国内外を股にかけた採集活動を展開します。主に、著名な鳥類学者である山階芳麿をはじめとする研究者からの依頼を受け、日本国内はもちろんのこと、当時の満州、樺太、千島列島、台湾、さらには遠く南洋諸島まで、足跡を残しました。

山階芳麿は、折居彪二郎の能力を高く評価しており、その著書の中で「射撃の腕前が優れているだけでなく、標本を作成する技術も天才的だった」と記しています。これは、彼の採集が単に動物を捕獲するだけでなく、その後の研究に耐えうる高品質な標本として仕上げる卓越した技術を持っていたことを示しています。

彼が長い年月と労力をかけて収集した動物標本は、確認されているだけで六千種を超えると言われており、当時の生物多様性を知る上で極めて貴重な資料となっています。これらの標本は、その後の生物分類や分布研究において、基礎的なデータを提供しました。

折居彪二郎の生物学への多大な貢献は、多くの研究者によって認識されています。その功績を称え、彼が採集に関わった動物のうち、鳥類では十種、哺乳類では七種の学名に、彼の名を示す「Orii」が献名されています。代表的な例としては、北海道に生息するエゾモモンガの亜種名（Pteromys volans orii）や、彼の名が直接冠されたオリイジネズミ（Crocidura orii）などが挙げられます。

彼の採集活動の記録は、「採集日誌」としてまとめられており、これらは現在も当時の動物相や採集地の状況を知る上で重要な資料として研究対象となっています。厳しい環境下での採集活動の様子や、対象となる動物への深い洞察が読み取れるでしょう。

折居彪二郎は、1970年（昭和45年）4月27日にその生涯を閉じました。彼の遺した膨大な標本と記録は、日本の自然史研究において計り知れない価値を持ち続け、後世の研究者にとって貴重な財産となっています。彼はまさに、現場から日本の生物学を支え続けた、陰の功労者と言えるでしょう。

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