抜隊得勝

抜隊得勝（ばっすい とくしょう）

抜隊得勝は、嘉暦2年（1327年）に相模国（現在の神奈川県）に生まれ、至徳4年/元中4年（1387年）に没した、南北朝時代の禅僧です。臨済宗向嶽寺派の開祖として知られています。俗姓は藤原氏とされています。

生涯

幼くして父を亡くした抜隊得勝は、29歳で出家しました。各地の禅僧に師事し、その修行を重ねました。正平13年（1358年）には、出雲の雲樹寺を開いた孤峯覚明（三光国師）から印可を受け、その禅の才能を認められました。その後、諸国を遊歴し、永和4年（1378年）には武蔵国を経て甲斐国に入ります。そこで富士山を望む高森（現在の山梨県甲州市）に庵を結びました。この庵は「向獄庵」と名付けられ、その名前は、抜隊が富士山に向かって説法する霊夢を見たことに由来すると伝えられています。

高森の庵は不便であったため、弟子の尽力により、甲斐国守護の武田信成から寄進を受け、康暦2年（1380年）に塩山向嶽庵を開きました。これが、臨済宗向嶽寺派の始まりとされています。抜隊は戒律に厳しく、僧坊における禁酒戒など、厳格な遺戒を定めました。これらの戒律は、「抜隊遺戒」として知られています。

抜隊の没後、二世住職である通宝明道（または通方）によって語録が編纂されました。向嶽庵は、代々の守護武田氏からの寺領寄進を受け、寺勢を拡大していきました。天文16年（1547年）には、甲斐守護の武田信玄（晴信）の働きかけにより、後奈良天皇から「慧光大円禅師」の諡号を賜り、この時から寺は「向嶽寺」と称するようになりました。

甲州市内の向嶽寺や正覚寺には、抜隊直筆の墨書が残されており、彼の書道における才能もうかがい知ることができます。また、向獄寺周辺には、抜隊が発見したとされる塩山温泉があり、現在も多くの人々に利用されています。

著作と関連文献

抜隊得勝は、以下の著作を残しています。

『塩山仮名法語』
『和泥合水集』

これらの著作は、抜隊の思想や禅の教えを理解する上で重要な資料となっています。

また、抜隊の伝記や作品については、以下の文献が知られています。

通宝明道 『抜隊和尚行實』
古田紹欽著・訳 『抜隊　日本の禅語録 第11巻』（講談社、1979年）

これらの文献は、抜隊の生涯や禅の教えについてより深く学ぶための貴重な資料です。

まとめ

抜隊得勝は、南北朝時代に活躍した禅僧であり、臨済宗向嶽寺派の開祖として、その名を知られています。富士山を望む地で厳しい修行を重ね、戒律を重んじました。その教えは、現代にも受け継がれており、その足跡は多くの人々にとって、心の道しるべとなっています。向嶽寺は、現在もその歴史と禅の精神を伝えています。

参考資料

『禅学大辞典』p.950

外部リンク

向嶽寺

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