担へ銃

『担へ銃』（Shoulder Arms）：チャップリン流の反戦メッセージ

チャールズ・チャップリンが第一次世界大戦中に製作した映画『担へ銃』は、単なる喜劇作品としてだけでなく、チャップリン自身の反戦思想や当時の世相に対するメッセージが込められた作品です。喜劇と戦争という相反する要素を組み合わせることで、戦争の悲惨さや兵士の孤独を浮き彫りにし、観る者に深い感動を与えました。

あらすじ

物語は、新兵チャーリーがぎこちない訓練を繰り返す場面から始まります。やがて西部戦線へ出征したチャーリーは、砲弾が飛び交う過酷な塹壕生活を送る中で、戦友たちと苦楽を共にします。ある時は、故郷から届いたチーズをドイツ側の塹壕に投げ込み、敵を混乱させるというコミカルな場面も。敵陣への突撃では、たった一人で13人のドイツ兵を捕虜にするという活躍を見せます。

危険な斥候任務に志願したチャーリーは、敵の勢力地域へ潜入。そこで、ドイツ兵に追われるフランス娘を助け、共に隠れ家へ逃げ込みます。しかし、そこへドイツ皇帝一行が視察に訪れ、チャーリーはフランス娘や戦友と協力して、ドイツ兵に変装し、皇帝一行を捕虜にするという大胆な作戦を成功させます。

しかし、これらの出来事はすべてチャーリーが見た夢でした。彼は戦友に起こされ、現実に引き戻されます。

製作の背景

チャップリンが『担へ銃』の製作に着手した背景には、第一次世界大戦への協力要請と、自身に対する兵役逃れの批判がありました。反戦主義者であったチャップリンは、当初、大戦への協力をためらっていましたが、世論の圧力や周囲の説得を受け、最終的に自由公債募集ツアーに参加することを決意します。

しかし、チャップリンの心には葛藤が残っていました。彼は、戦争を喜劇として描くことに当初は反対する声もあったものの、「悲劇がかえって笑いの精神を刺激する」という信念のもと、製作を強行します。また、当時チャップリンは徴兵検査で体重不足により不合格となっていましたが、世間からの風当たりは強く、苦悩の日々を送っていました。

作品の意義と評価

『担へ銃』は、公開当時、チャップリン映画史上最高の興行収入を記録し、批評家からも高い評価を受けました。この作品は、それまで真面目なテーマとして扱われてきた戦争を、初めて喜劇映画の題材として取り上げた画期的な作品でもありました。

チャップリンは、戦争を単純に喜劇化したわけではありません。戦場のチャーリーは孤独であり、郵便物が届かないというシーンは、多くの大戦経験者の涙を誘いました。チャップリン研究家の大野裕之は、「当時の戦争映画でここまであからさまに兵士の孤独や悲しみを描いた例はなく、戦意を高揚させるものではなかった」と述べています。映画史家のデイヴィッド・ロビンソンも「実際の戦闘を体験した人々こそが『担へ銃』の真価を本当により理解した観客であった」と指摘しています。

バスター・キートンは、恐ろしい災害も喜劇の題材になり得る証左として本作を評価しました。

後日談

初公開から約40年後の1959年、チャップリンは『担へ銃』を再編集し、『チャップリン・レヴュー』として公開しました。この再編集版には、チャップリン自身による音楽とナレーション、そして実際の戦争のフィルムが追加されています。現行版はこの1959年版が基本となっています。

『担へ銃』は、チャップリンの反戦思想と、戦争に対する複雑な感情が込められた作品であり、時代を超えて、私たちに戦争の愚かさを問いかける不朽の名作です。

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