拷問者の島
『拷問者の島』
クラーク・アシュトン・スミスが著した短編ホラー小説『拷問者の島』（原題：The Isle of the Tortures）は、1933年3月号の『ウィアード・テールズ』誌に発表されました。先行する作品『死体安置所の神』の出来事の後に位置しており、そちらで辛くも難を逃れたファリオムとエライスが目的地であるヨロスへと向かう一方、本作ではそのヨロスで起こった悲劇が描かれるという、読者にとって皮肉な対比をなす構成となっています。
物語の舞台の一つとなるウッカストログの島は、「拷問者の島」として広く知られ、畏怖されています。この島の住民は、妖術を用いて海上を嵐に変え、船を難破させて島の岸辺へと誘い込むのです。そして、捕らえられた人々は、島の王と民の娯楽のために、想像を絶するおぞましい拷問に晒され続けます。
一方、遠く離れたヨロス国では、星から降り下ったという悪疫「銀死病」が恐るべき勢いで蔓延し、国が一夜にして滅亡すると予言されていました。これは避けがたい宿命として定められており、その恐ろしい真実は国民には秘匿されています。ヨロスの宮廷占星術師ウェムデーズは、若き王フルブラの運命を占星術で読み解き、彼が故国ヨロスで死ぬことはないものの、どこでどのように最期を迎えるかは不明であることを悟ります。そこでウェムデーズは、高度な魔術を用いて、身に着ける者を銀死病から守る魔法の指輪を作り上げ、フルブラ王に授けました。夜が明け、首都ファラードの王宮で銀死病の猛威から生還していたのは、フルブラ王と彼に仕える3人の奴隷だけでした。絶望的な状況の中、フルブラ王家の屋形船は、南方のキュントロム島に保護を求めるべく旅立ちます。しかし、船は大嵐に遭遇して半壊し、皮肉なことに、あの恐ろしいウッカストログ島へと漂着し、島の住民によって捕らえられてしまうのです。
フルブラ王は、島の支配者であるイルドラク王に謁見し、自身の高貴な身分と悲劇的な境遇を語り、キュントロム島への避難を希望する旨を訴えます。しかし、イルドラク王は「歓迎する」と偽ってフルブラの武器を没収すると、彼を地下の土牢へと幽閉してしまいます。この土牢は海中洞窟に隣接しており、ガラス越しの壁面からは、奇怪な海の怪物たちや、過去の拷問の犠牲者たちの無惨な姿を見ることができる、まさに地獄のような環境でした。囚われの身となったフルブラ王に、イルウァーという名の娘が接触を図ります。彼女は島では珍しくフルブラに優しく接し、彼を救い出し、この島から脱出させてあげると申し出ます。
翌日、フルブラはイルドラク王の前に引き出され、最初の拷問にかけられます。音、煙、酸、有毛蛇など、様々な奇妙で残酷な責め苦がフルブラを苦しめます。イルドラク王と島の民は、その光景を満悦の表情で眺め、フルブラがこれ以上耐えられないと見破ると、これから末永く痛めつけるために、拷問を中断させ、彼を土牢へと帰還させました。再び姿を見せたイルウァーは、明日の夜に島の門の鍵を盗み、船でフルブラを逃がすと改めて告げます。二日目の拷問を、フルブラはイルウァーの存在と彼女への希望を支えに耐え抜くことができました。夜になり、フルブラは土牢でイルウァーの訪れを待ちわびますが、彼女はついぞ姿を見せず夜が明けていきます。
三日目の夜明け、フルブラは再びイルドラク王の前に連れ出され、刑車に拘束されます。拷問者たちは、この責め苦は単に肉体を打ち砕くだけではなく、薬物を用いて王としての記憶を奪い去り、その魂を地獄へ送るためのものだと説明します。その時、イルウァーが姿を現しますが、彼女は残酷な歓喜を露わにし、自分を信じたフルブラの愚かさを嘲笑しました。見物していた島の民もまたフルブラに罵声を浴びせ嘲り、イルウァーに称賛を送ります。イルウァーの裏切りにより、フルブラは深い絶望に閉ざされ、生き延びたいという思いは完全に失せてしまいました。
フルブラは最期の言葉を口にします。「記憶も、命も、尊厳も、すべて奪われても構わない。だが、私の左手中指にはめているこの指輪だけは、決して奪ってはならないぞ。この指輪は、私にとって国や恋人よりも大切なものなのだから」。この言葉を聞いたイルドラク王は、フルブラに更なる苦痛を与え、その指から指輪を強奪し自身の指にはめると、高らかに彼を嘲弄しました。しかし、この行為が、指輪の魔力によって抑え込まれていた恐るべき銀死病を、島全体へと解き放ってしまう結果を招いたのです。ただ一人イルドラク王のみが、指輪の加護によって感染を免れていたものの、島中に広がる異常事態に恐慌をきたし、指輪に有害な魔術が仕掛けられていたのだと誤解して、それを外してしまいます。
物語の主要人物としては、悲劇の主人公であるヨロスの若き王フルブラ、彼に銀死病除けの指輪を授けたヨロス宮廷の占星術師ウェムデーズ、フルブラの傍らで拷問の犠牲となる3人の奴隷、拷問を娯楽とするウッカストログ島の王イルドラク、そしてフルブラを欺き裏切る島の娘イルウァーなどが登場します。また、島特有の奇怪な外見を持つウッカストログの民や、海中洞窟に潜む怪物たちも、この異様な世界の住人として描かれます。そして、作品の根幹に関わる存在として、妖星アケルナルから飛来し、瞬く間に命を奪い体を金属質の青白さに変える悪疫「銀死病」が、抗いがたい破滅の象徴として描かれています。
本作は、スミスのゾティーク連作の一つとして、『ゾティーク幻妖怪異譚』（創元推理文庫、大瀧啓裕訳）に収録されています。人間の残酷さ、抗えない運命、そして救いのない絶望を描いた、クラーク・アシュトン・スミスらしい陰鬱でゴシック的な魅力に満ちた作品です。
クラーク・アシュトン・スミスが著した短編ホラー小説『拷問者の島』（原題：The Isle of the Tortures）は、1933年3月号の『ウィアード・テールズ』誌に発表されました。先行する作品『死体安置所の神』の出来事の後に位置しており、そちらで辛くも難を逃れたファリオムとエライスが目的地であるヨロスへと向かう一方、本作ではそのヨロスで起こった悲劇が描かれるという、読者にとって皮肉な対比をなす構成となっています。
物語の舞台の一つとなるウッカストログの島は、「拷問者の島」として広く知られ、畏怖されています。この島の住民は、妖術を用いて海上を嵐に変え、船を難破させて島の岸辺へと誘い込むのです。そして、捕らえられた人々は、島の王と民の娯楽のために、想像を絶するおぞましい拷問に晒され続けます。
一方、遠く離れたヨロス国では、星から降り下ったという悪疫「銀死病」が恐るべき勢いで蔓延し、国が一夜にして滅亡すると予言されていました。これは避けがたい宿命として定められており、その恐ろしい真実は国民には秘匿されています。ヨロスの宮廷占星術師ウェムデーズは、若き王フルブラの運命を占星術で読み解き、彼が故国ヨロスで死ぬことはないものの、どこでどのように最期を迎えるかは不明であることを悟ります。そこでウェムデーズは、高度な魔術を用いて、身に着ける者を銀死病から守る魔法の指輪を作り上げ、フルブラ王に授けました。夜が明け、首都ファラードの王宮で銀死病の猛威から生還していたのは、フルブラ王と彼に仕える3人の奴隷だけでした。絶望的な状況の中、フルブラ王家の屋形船は、南方のキュントロム島に保護を求めるべく旅立ちます。しかし、船は大嵐に遭遇して半壊し、皮肉なことに、あの恐ろしいウッカストログ島へと漂着し、島の住民によって捕らえられてしまうのです。
フルブラ王は、島の支配者であるイルドラク王に謁見し、自身の高貴な身分と悲劇的な境遇を語り、キュントロム島への避難を希望する旨を訴えます。しかし、イルドラク王は「歓迎する」と偽ってフルブラの武器を没収すると、彼を地下の土牢へと幽閉してしまいます。この土牢は海中洞窟に隣接しており、ガラス越しの壁面からは、奇怪な海の怪物たちや、過去の拷問の犠牲者たちの無惨な姿を見ることができる、まさに地獄のような環境でした。囚われの身となったフルブラ王に、イルウァーという名の娘が接触を図ります。彼女は島では珍しくフルブラに優しく接し、彼を救い出し、この島から脱出させてあげると申し出ます。
翌日、フルブラはイルドラク王の前に引き出され、最初の拷問にかけられます。音、煙、酸、有毛蛇など、様々な奇妙で残酷な責め苦がフルブラを苦しめます。イルドラク王と島の民は、その光景を満悦の表情で眺め、フルブラがこれ以上耐えられないと見破ると、これから末永く痛めつけるために、拷問を中断させ、彼を土牢へと帰還させました。再び姿を見せたイルウァーは、明日の夜に島の門の鍵を盗み、船でフルブラを逃がすと改めて告げます。二日目の拷問を、フルブラはイルウァーの存在と彼女への希望を支えに耐え抜くことができました。夜になり、フルブラは土牢でイルウァーの訪れを待ちわびますが、彼女はついぞ姿を見せず夜が明けていきます。
三日目の夜明け、フルブラは再びイルドラク王の前に連れ出され、刑車に拘束されます。拷問者たちは、この責め苦は単に肉体を打ち砕くだけではなく、薬物を用いて王としての記憶を奪い去り、その魂を地獄へ送るためのものだと説明します。その時、イルウァーが姿を現しますが、彼女は残酷な歓喜を露わにし、自分を信じたフルブラの愚かさを嘲笑しました。見物していた島の民もまたフルブラに罵声を浴びせ嘲り、イルウァーに称賛を送ります。イルウァーの裏切りにより、フルブラは深い絶望に閉ざされ、生き延びたいという思いは完全に失せてしまいました。
フルブラは最期の言葉を口にします。「記憶も、命も、尊厳も、すべて奪われても構わない。だが、私の左手中指にはめているこの指輪だけは、決して奪ってはならないぞ。この指輪は、私にとって国や恋人よりも大切なものなのだから」。この言葉を聞いたイルドラク王は、フルブラに更なる苦痛を与え、その指から指輪を強奪し自身の指にはめると、高らかに彼を嘲弄しました。しかし、この行為が、指輪の魔力によって抑え込まれていた恐るべき銀死病を、島全体へと解き放ってしまう結果を招いたのです。ただ一人イルドラク王のみが、指輪の加護によって感染を免れていたものの、島中に広がる異常事態に恐慌をきたし、指輪に有害な魔術が仕掛けられていたのだと誤解して、それを外してしまいます。
物語の主要人物としては、悲劇の主人公であるヨロスの若き王フルブラ、彼に銀死病除けの指輪を授けたヨロス宮廷の占星術師ウェムデーズ、フルブラの傍らで拷問の犠牲となる3人の奴隷、拷問を娯楽とするウッカストログ島の王イルドラク、そしてフルブラを欺き裏切る島の娘イルウァーなどが登場します。また、島特有の奇怪な外見を持つウッカストログの民や、海中洞窟に潜む怪物たちも、この異様な世界の住人として描かれます。そして、作品の根幹に関わる存在として、妖星アケルナルから飛来し、瞬く間に命を奪い体を金属質の青白さに変える悪疫「銀死病」が、抗いがたい破滅の象徴として描かれています。
本作は、スミスのゾティーク連作の一つとして、『ゾティーク幻妖怪異譚』（創元推理文庫、大瀧啓裕訳）に収録されています。人間の残酷さ、抗えない運命、そして救いのない絶望を描いた、クラーク・アシュトン・スミスらしい陰鬱でゴシック的な魅力に満ちた作品です。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。