ゾティーク

ゾティーク（Zothique / Zosique）

ゾティークは、アメリカの幻想文学作家クラーク・アシュトン・スミス（Clark Ashton Smith）によって創造された、はるか遠い未来の地球に存在する架空の大陸、およびそれを舞台とする一連の小説・詩・戯曲シリーズの総称です。

世界観と概要

スミスの広範な創作活動の中でも、ゾティークシリーズは作品数と描かれる世界の規模において、最も重要な位置を占めます。このシリーズはファンタジーに分類されますが、特に「終末もの（Apocalyptic fiction）」や「ダイイング・アースもの（Dying Earth）」と呼ばれるジャンルに属します。これは、地球がすでに老年期を迎え、文明が衰退しつつある世界を描くものです。

ゾティーク大陸は、未来のある時代に、かつての陸地が再び海から隆起して形成されたとされています。現代から気の遠くなるような長い時が経過し、太陽の光は弱まり、高度な科学技術に基づいた文明は滅び去りました。代わりに、忘れ去られていた太古の魔法が再び力を持つようになり、人々は魔法や土着の信仰、そして過去の遺物や廃墟に囲まれて生きています。この退廃的でありながらも幻想的な世界観は、スミス自身がとりわけ愛情を注いだテーマであったと、彼の作品の翻訳者である大瀧啓裕氏は述べています。

作品群

ゾティークシリーズには、短編小説が16編、戯曲が1編、そして未完成の原稿や草稿が存在します。邦訳された作品が多く、主に幻想文学のアンソロジーや単行本に収録されています。

主要な短編には、降霊術師の帝国、拷問者の島、死体安置所の神、暗黒の魔像、エウウォラン王の航海、地下納骨所に巣を張るもの、墓の落とし子、ウルアの妖術、クセートゥラ、最後の象形文字、ナートの降霊術、プトゥームの黒人の大修道院長、イラロタの死、アドムファの庭園、蟹の支配者、モルテュッラなどがあります。これらの短編は、主にパルプ雑誌『ウィアード・テイルズ（Weird Tales）』に掲載されました。

邦訳された単行本としては、『ゾティーク幻妖怪異譚』（創元推理文庫）が大瀧啓裕氏の訳で刊行されており、詩を含むほぼ全てのゾティーク短編が網羅されています。また、『魔術師の帝国1 ゾシーク篇』（ナイトランド叢書）にも一部作品が収録され、地図が付されています。

戯曲『The Dead Will Cuckold You』も存在しますが、長らく発表されないままでした。

地理

ゾティーク大陸の地理については、複数のアーティストによって地図が描かれてきましたが、それぞれの解釈や想像によって補われた部分が多く、物語全体と完全に矛盾しない決定版の地図は存在しないのが現状です。しかし、主要な地形や地名は多くの作品に共通して登場します。

大陸の東西と南方には島々が点在しており、北方の地理はあまり詳しく描かれていません。広大な中央大陸には、多くの王国や都市、領土が存在しますが、長い歴史の中で栄枯盛衰を繰り返し、かつての都市が廃墟となって残る「失われた王国」も多く存在します。これは、惑星全体が人口減少と衰退に向かっている世界観を反映しています。

神々、魔神たち

ゾティーク社会は多神教であり、多様な神々や魔神が人々に崇拝されています。一部の神々は寺院や司祭を持つ公的な信仰の対象ですが、秘密裏に邪神が信奉されることも少なくありません。

興味深いのは、ゾティークで信仰される神々の一部が、遥か古代に存在したとされる伝説の大陸、例えばヒュベルボレオス、ムー、ポセイドニス（アトランティス）などで崇拝されていた神々が、気の遠くなるような時間を経て、異なる名前で再び現れた存在であると設定されている点です。

物語に登場する主な神々や魔神には以下のような存在がいます：

アリラ (Alila): 地獄の女王と呼ばれ、あらゆる邪悪の女神とされています。
ウェルガマ (Vargama): ゾティーク最強とも称される謎めいた存在で、象形文字が記された書物を持っています。
オジュハル (Ojhal): 処女の女神として言及されます。
ゲオル (Geol): 大地の神です。
タサイドン (Thasaidon): 頻繁に登場する悪の魔王です。
タモゴルゴス (Thamogorgos): 深淵の王と呼ばれます。
ニオス・コルガイ (Nios-Korghai): 彗星に乗って飛来したとされる魔物で、後にクトゥルフ神話体系にも取り込まれました。
バサタン (Basatan): 海神であり、その姿は不明ですが、関連する呪具にはクラーケンが象られています。
モルディッギアン (Mordiggian): 死体を供物として受け取る異様な神で、彼もまたクトゥルフ神話に取り入れられています。
ユクラ (Yuckla): 笑いを司るグロテスクな小神ですが、その力は慈悲深いとされています。

ゾティークの世界は、このように退廃、幻想、魔法、そして異形の神々が織りなす、スミス独自の終末ファンタジーとして、今なお多くの読者を魅了しています。

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