拾遺和歌集

『拾遺和歌集』は、『古今和歌集』、『後撰和歌集』に続く、三代集と呼ばれる勅撰和歌集の最終作品です。一条天皇の治世、寛弘年間（1005～1007年）に編纂されたと推測されていますが、その成立過程には不明な点が多く、いまだ研究が続けられています。

古くから、花山院（かざんいん）が自ら編纂した、あるいは藤原長能（ふじわらのながよし）や源道済（みなもとのみちやす）に編纂させたとする説がありましたが、決定的な証拠は見つかっていません。花山天皇の退位後、天皇の和歌への深い造詣から編まれたとされています。しかし、勅撰集としての正式な手続きは省略されており、むしろ藤原公任（ふじわらのきんとう）が編纂したとされる私撰集『拾遺抄』の方が、当初は勅撰集として広く認識されていたほどです。『拾遺和歌集』が正式な勅撰集として認められるようになったのは、藤原定家（ふじわらのていか）の『三代集之間事』以降のことです。

『拾遺和歌集』と『拾遺抄』の関係も、長らく議論の的でした。古くは『拾遺抄』が『拾遺和歌集』の精選版とする見方が一般的でしたが、塙保己一（はなわほきいち）によって否定され、現在では『拾遺抄』を増補・改訂することで『拾遺和歌集』が成立したとの説が有力となっています。さらに、複数の写本が存在し、『拾遺抄』を底本とする異本『拾遺和歌集』、そして広く流布した流布本『拾遺和歌集』と、複数の系統が確認できます。

流布本によれば、『拾遺和歌集』は全1351首、20巻からなります。部立ては、春、夏、秋、冬、賀、別、物名、雑（上・下）、神楽歌、恋（五巻）、雑春、雑秋、雑賀、雑恋、哀傷と、独特の構成になっています。特に「雑春」「雑秋」「雑恋」「哀傷」といった部は、『拾遺抄』の雑の部を細分化して作られたと考えられています。

「拾遺」という名称は、前代の勅撰和歌集に収録されなかった優れた歌を拾い集めたことを意味します。収録されている歌人は、紀貫之（きのかつら）、柿本人麻呂（かきのもとのひとまろ）、大中臣能宣（おおなかとみ の よしのぶ）、清原元輔（きよはらのもとすけ）、平兼盛（たいらのかねもり）など、多岐に渡り、『万葉集』や『後撰和歌集』の時代の歌人が多く含まれ、高い評価を受けていることがわかります。一方、藤原輔相（ふじわらのすけすけ）、藤原順（ふじわらのしたが）、藤原好忠（ふじわらのよしただ）など、個性的な歌風を持つ歌人や、和泉式部（いずみし）、斎宮女御（さいぐうにょご）、藤原道綱母（ふじわらのどうつなのはは）、藤原公任といった、同時代の著名な歌人の作品も数多く収録されています。

『拾遺和歌集』の歌風は、当時の歌壇の流行を反映した平明で優美な作風が多く、賀歌、屏風歌、歌合など、祝祭的な歌が多いのも特徴です。特に恋歌に秀でた作品が多く、その高い芸術性は、小倉百人一首に8首もの歌が選ばれていることからも明らかです。これらの作品群は、平安時代の和歌文化の多様な側面を映し出す貴重な資料となっています。

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