後撰和歌集

後撰和歌集：平安時代の歌集とその特徴

『後撰和歌集』は、平安時代中期、村上天皇の命によって編纂された勅撰和歌集です。既存の勅撰和歌集である『古今和歌集』に次ぐ、第二番目の勅撰和歌集として知られています。成立時期は950年代と推定されていますが、正確な時期は分かっていません。

構成と内容

『後撰和歌集』は、『古今和歌集』にならって、季節（春・夏・秋・冬）やテーマ（恋・雑・離別・賀歌）ごとに20巻に分けられています。各巻には様々な歌が収録されており、その総数は1425首にのぼります。特に、離別歌と羇旅歌を併せて一巻に、賀歌と哀傷歌を併せて一巻に収録している点が、他の和歌集には見られない独特な特徴となっています。

成立に関する諸説

『後撰和歌集』には、他の勅撰和歌集と異なり、序文がありません。そのため、成立時期については諸説があり、定説は得られていません。史書によれば、天暦5年（951年）に宮中で和歌の撰進が行われ、源順、大中臣能宣、清原元輔、坂上望城、紀時文の五人が中心となって編纂に当たったとされています。しかし、成立時期については、天暦9年から天徳2年（958年）の間とする説や、天暦7年（953年）頃とする説など、様々な意見が存在します。

さらに、序文の欠如や物語的な詞書、部立てや配列の乱れ、歌の重複などの点から、「未定稿」だったとする説もあります。これは、編纂途中で完成に至らなかった、あるいは完成版が何らかの理由で失われたとする見解です。内裏の火災によって奏覧本が焼失し、草稿本が後世に伝わったとする説も存在します。

『古今和歌集』との比較と特色

『後撰和歌集』は、『古今和歌集』と比較するといくつかの違いが見られます。まず、撰者自身の歌が収録されていない点が挙げられます。『古今和歌集』の編纂から40年余しか経っていないため、紀貫之、伊勢、藤原兼輔など、『古今和歌集』にも作品が収録されている歌人が再び多く作品を掲載されています。また、藤原師輔、藤原実頼、藤原敦忠といった権門の貴族の作品が多く採られている一方で、中務や右近といった当時の女流歌人の作品も多数収められています。

さらに、『後撰和歌集』の特徴として、詞書が非常に長文化している点が挙げられます。これは、歌物語の影響を受けた可能性が示唆されています。また、宇多法皇や藤原時平といった貴族の日常生活を題材にした「褻（け）の歌」が多いことも、『後撰和歌集』の大きな特色と言えるでしょう。これらの特徴は、前代の『古今和歌集』とは異なる、新たな時代の歌風を反映していると言えるかもしれません。未定稿説が有力視される背景には、このような特徴が挙げられると考えられます。

参考文献

『後撰和歌集』 片桐洋一校注・解説、岩波書店〈新日本古典文学大系6〉、1990年
『本朝文粋』 大曽根章介ほか校注、岩波書店〈新日本古典文学大系27〉、1992年
『八代集1　古今集　後撰和歌集』 奥村恒哉校注、平凡社東洋文庫、1986年、ワイド版2008年
『後撰和歌集 和歌文学大系31』 徳原茂実 校注・著、明治書院、2022年

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