指定通院医療機関

指定通院医療機関とは

指定通院医療機関（していつういんいりょうきかん）は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」、通称「医療観察法」に基づいて設けられる、特別な役割を持つ医療機関です。

この法律は、特定の重大な犯罪（他害行為）を行った際に、心神喪失や心神耗弱といった精神的な障害が影響し、刑事責任を問われなかった人々に対して、適切な医療を提供し、安全な社会復帰を支援することを目的としています。指定通院医療機関は、そうした対象者のうち、地方裁判所の判断により通院による医療を受けることが決定された人々の受け入れ先となります。

対象となる人々

指定通院医療機関に通院するのは、医療観察法の対象者の中でも、裁判所の審判で「通院決定」が下された人々です。具体的には、以下のような経緯をたどった人が対象となり得ます。

1. 心神喪失などの状態で、以下の重大な他害行為に及んだ者。
殺人
放火
強盗
強姦
強制わいせつ
傷害（未遂を含む場合もあります）
2. 上記の行為に関して、心神喪失などを理由に不起訴処分となったり、刑事裁判で無罪判決を受けたりした者。
3. 検察官からの申し立てがあり、鑑定入院医療機関での鑑定入院を経て、地方裁判所による審判を受けた者。
4. その審判の結果、通院による医療が必要と判断された者。
5. または、指定入院医療機関での入院治療を終え、退院許可を受けて通院による継続的な医療が必要とされた者。

このように、対象者は単に精神疾患があるだけでなく、特定の重大な行為に及んでおり、かつ刑事手続きとは異なる医療観察法の手続きを経て、司法的な判断によって医療の必要性が認められた人々に限定されます。

機関の役割と指定

指定通院医療機関として機能するためには、厚生労働大臣による指定が必要です。これは、医療観察法に基づく専門的かつ適切な医療を提供できる体制が整っていることが求められるためです。

これらの医療機関では、精神科医や看護師、作業療法士、精神保健福祉士などの多職種チームが連携し、対象者の精神疾患の治療だけでなく、社会生活技能訓練（SST）や認知行動療法など、社会復帰に向けたリハビリテーションプログラムも提供します。地域社会での生活を安全かつ安定して送るための支援が重視されます。

処遇の内容と期間

通院による医療は、対象者の個別的なニーズに合わせて作成される「処遇実施計画」に基づいて行われます。この計画は、保護観察所の社会復帰調整官が中心となり、指定通院医療機関の医療スタッフや関係機関と連携して策定されます。計画には、通院の頻度、医療の内容、目標、生活上の留意点、社会資源の活用などが具体的に盛り込まれます。

対象者は、原則として最長3年間、この計画に従って指定通院医療機関に通院し、医療と支援を受けます。社会復帰調整官は、通院状況や対象者の状態を定期的に把握し、必要に応じて計画の見直しを行います。期間満了後も、必要であれば医療保険等を用いた通常の医療や福祉サービスへ円滑に移行できるよう支援が行われます。

医療観察制度における位置づけ

指定通院医療機関は、医療観察制度において、地域社会での継続的な医療と支援を担う重要な役割を果たします。集中的な入院治療を行う指定入院医療機関と連携し、対象者の回復段階に応じた適切な処遇を提供することで、再犯防止と社会復帰という制度の目的達成に不可欠な存在です。刑法第39条などが関連する心神喪失・心神耗弱に関する法的枠組みの後に適用されるこの制度は、精神疾患を抱える人々の犯罪への対応と社会復帰支援における専門的なアプローチを提供しています。

関連する概念

触法精神障害者
医療観察法（心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律）
鑑定入院
指定入院医療機関
不起訴
無罪
精神科
社会復帰調整官

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