振幅偏移変調

振幅偏移変調（ASK）とは

振幅偏移変調（Amplitude Shift Keying、ASK）は、デジタル信号を送受信する際に用いられる変調方式の一つです。送信するデータのビット列に応じて、搬送波の振幅を変化させることで情報を伝送します。日本では一般的にASKと呼ばれており、総務省の文書などではASK変調方式と表記されます。

ASKの特徴

振幅変化: 搬送波の周波数と位相は一定に保ち、振幅のみを変化させることで情報を伝達します。
ノイズに弱い: アナログ変調方式の振幅変調（AM）と同様に、ノイズや妨害波、フェージングの影響を受けやすい特性を持ちます。
単純な実装: 特に単純な2値ASKでは、デジタル信号が0の時に振幅を小さく、1の時に振幅を大きくすることで実現できます。

オンオフ変調（OOK）

最も単純なケースとして、搬送波をオン/オフする方式があります。これはオンオフ変調（OOK）と呼ばれ、デジタル信号が0の時に搬送波をオフ、1の時にオンにするものです。一般的にASKとOOKは明確に区別されず、OOKもASKの一種として扱われることがあります。

OOKは、他の変調方式と比較して装置が単純かつ安価なため、光ファイバーでのデータ送信などに広く利用されています。LED送信器では、バイナリーの1が短い光パルス、0が消灯に対応し、レーザー送信器では、低い光度が0、高い光度が1に対応します。

ASKの符号化

基本的な符号化

最も単純なASKでは、搬送波が存在する場合をバイナリーの1、存在しない場合を0とします。これはオンオフ変調（OOK）とも呼ばれ、モールス信号の無線送信にも使用されます。

多値ASK

より複雑な符号化では、複数のデータをグループ化し、振幅の異なる複数のレベルで表現します。例えば、4段階の振幅を使用する4値ASKでは、各波形で2ビットを表現できます。同様に、8段階の振幅を使用する8値ASKでは、各波形で3ビットを表現できます。これはPSK（位相偏移変調）におけるQPSKや8PSKと同様の考え方です。

多値ASKを用いることで伝送効率を向上させることができますが、正確な復号には高いS/N比（信号対雑音比）が求められます。

ASKの送受信システム

以下は、ASKで使用する送受信システムの典型的な例を示すダイアグラムです。

システム構成

送信部: データ信号をASK変調し、搬送波に乗せて送信します。
送信経路: 送信された信号は、ノイズや減衰の影響を受けます。
受信部: 受信した信号を復調し、元のデータ信号を再生します。

各部の役割

`ht(t)`: 送信時の搬送波
`hc(t)`: 送信経路のインパルス応答
`n(t)`: 送信経路へのノイズ
`hr(t)`: 受信機のフィルタ
`L`: 送信時に使用される振幅レベル数
`Ts`: 2つのシンボルの作成にかかる時間

送信部では、信号源からランダムに出力されるシンボル`v[n]`に基づいて、波形生成装置が面積`v[n]`のインパルス波形を作り出します。この波形はフィルタ`ht`を経由して、チャネルを通して送信されます。つまり、各シンボルごとに対応する振幅の異なる搬送波が送信されることになります。

送信信号`s(t)`は以下の式で表されます。


s(t) = Σ v[n] ht(t - nTs)


受信機では、フィルタ`hr(t)`を通した後、信号は次のようになります。


z(t) = s(t) hc(t) hr(t) + n(t) hr(t)


ここで、``は畳み込みを表します。A/D変換後、信号`z(k)`は以下のようになります。


z(k) = v[k] g(t) + n'(k) + ISI


第1項：復号されるシンボル
第2項：ノイズの影響
第3項：シンボル間干渉(ISI)

シンボル間干渉をなくすために、ナイキスト基準を満たすフィルタを選択することで、ISIは0となり、送信信号はノイズのみの影響を受けることになります。

ASKの誤り率

誤り率のモデル

ASKにおける誤り率は、ガウス関数を用いてモデル化されます。平均値は送信された値から求められ、分散は次の式で与えられます。


σ^2 = ΦN(f) ∫|Hr(f)|^2 df


ここで、`ΦN(f)`は帯域中のノイズのスペクトル密度、`Hr(f)`はフィルタ`hr(f)`のインパルス応答のフーリエ変換です。

誤り率の計算

誤りが発生する確率は、次の式で与えられます。


Pe = Σ P(e/Hi) P(Hi)


ここで、`P(e/Hi)`はシンボル`vi`が送信された後に誤りが生じる条件付き確率、`P(Hi)`はシンボル`vi`を送信する確率です。全てのシンボルを送信する確率が等しい場合、次のようになります。


Pe = (2L-2) P+


ここで、`P+`はガウス分布関数において、他のシンボルに対応する振幅となる部分の面積に相当します。

この面積を計算すると、誤り率は次の式で表されます。


Pe = ((L-1)/L) erfc(sqrt(3Es / ((L^2 - 1) 2N0)))


この式から、送信信号の最大振幅を増やすか、系の増幅率を上げることで誤り率を低減できることがわかります。一方で、シンボル中のビット数(振幅のレベル数L)を増やしたり、ノイズが増加すると、誤り率が増加します。

まとめ

振幅偏移変調（ASK）は、デジタル通信において広く使用されている変調方式です。基本的な原理はシンプルですが、様々な応用があり、伝送効率や誤り率などの観点から理解しておく必要があります。この記事を通して、ASKの基礎知識を深めていただければ幸いです。

関連項目

周波数偏移変調
位相偏移変調
ナイキスト基準
オンオフ変調

外部リンク

* Calculating the Sensitivity of an Amplitude Shift Keying (ASK) Receiver

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