掃骨鍼法

掃骨鍼法

掃骨鍼法は、小山曲泉が提唱した鍼術であり、主に神経痛の症状に対して適用される特殊な治療法です。この鍼術は、伝統的な経絡治療とは異なり、骨の特定の部位（枯孔）への刺激を通じて症状の改善を目指す、独自のアプローチを取ります。

掃骨鍼法の考え方

小山曲泉の著書『神経痛 掃骨鍼法』によれば、掃骨鍼法の基本的な考え方は以下の通りです。

対症療法としての位置づけ: 掃骨鍼法は、症状そのものに直接働きかける対症療法であり、経絡の概念に基づく伝統的な鍼灸治療とは一線を画します。しかし、古典的な経筋治療の現代版と捉えることもでき、鍼灸治療の中では外科的なアプローチに近いと考えられます。
骨の枯孔へのアプローチ: 掃骨鍼法では、骨に存在する「枯孔」（圧痛点）を治療のターゲットとします。これらの枯孔に対して、部位に応じて適切な太さの鍼（5番〜10番鍼）を刺入し、軽い雀啄法（鍼を細かく振動させる手技）を施します。
治癒メカニズム: 掃骨鍼法による治癒メカニズムは、以下のように説明されます。
1. 骨の老化に伴う枯孔の形成
2. 枯孔周辺の末梢血行の悪化
3. 骨膜の機能不全（仮死状態）
4. 神経終末の機能阻害
5. 防御抗体反応（硬結、陥下、炎症の発生）
6. 掃骨鍼法による刺激
7. 汚滞した血液の排除
8. 骨膜および骨組織の蘇生
9. 受容器（痛みを感じる部分）の環境改善
10. 治癒
圧痛点の重要性: 掃骨鍼法では、枯孔が圧痛点として現れることに注目します。圧痛点があれば必ず枯孔が存在すると考え、経穴（ツボ）の厳密な探索は不要とされます。この点において、掃骨鍼法は神経断区療法（特定の神経領域に焦点を当てた治療法）に近いと言えます。

古典との関連

掃骨鍼法の考え方は、古典的な医学書にもそのルーツを見出すことができます。『黄帝内経霊枢』官鍼篇第七第三節には、「短刺」という鍼術が紹介されており、これは骨の近くを刺し、鍼を上下に動かして骨を刺激するという点で、掃骨鍼法と共通する要素を持っています。

現代医学との関連

現代医学においては、黒岩共一 関西医療大学（現 関西国際医療大学）教授の『トリガーポイント鍼療法』の研究が、掃骨鍼法に最も近いと考えられます。トリガーポイント鍼療法は、筋肉や筋膜に形成されたトリガーポイント（痛みの引き金となる点）に鍼を刺入することで、痛みを緩和する治療法であり、掃骨鍼法と同様に、特定の部位への刺激を通じて症状の改善を目指します。

参考文献

小山曲泉 『神経痛掃骨鍼法』 明治東洋医学院出版部 （絶版）
黒岩共一 『臨床家のためのトリガーポイントアプローチ』医道の日本社
* 柴崎保三 『鍼灸医学大系 (15) 黄帝内経霊樞』 雄渾社

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