探偵神宮寺三郎新宿中央公園殺人事件

1987年 4月24日、データイーストからファミリーコンピュータディスクシステム向けに発売されたハードボイルドアドベンチャーゲーム。本作は、以降長く続く人気シリーズ『探偵神宮寺三郎』の第一作目にあたります。

ゲーム概要とシステム

データイーストが初めて手掛けたアドベンチャーゲームであり、ファミリーコンピュータにおいては『ポートピア連続殺人事件』などに続く推理系のコマンド選択式アドベンチャーとして登場しました。基本的な操作は「みる」「きく」「たたかう」「そうさにいく」といったコマンドを選択して進行します。しかし、本作には後のシリーズ作とは異なる独自の要素がいくつか存在します。

特筆すべきは、ロールプレイングゲームを彷彿とさせるフィールド画面の存在です。新宿中央公園内がマップとして表現され、プレイヤーは主人公・神宮寺を操作して公園内を自由に探索するパートが設けられています。また、「そうさやめる」というコマンドを選択するとゲーム内の時間が1日経過し、捜査期限（30日）を超過すると強制的にゲームオーバーとなります。さらに、特定の選択肢を選ぶことでも即座にゲームオーバーとなる場面があり、当時のゲームとしてはやや理不尽さを伴う設計のため、難易度は比較的高めです。これらのユニークなシステムは、次作以降では採用されず、本作特有のものとなりました。

特徴的な演出と雰囲気

本作は、公園内のフィールド探索時と一部シーンを除き、ほとんどBGMが流れません。代わりに、登場人物が重要な証言をしたり、意外な言動を見せたりした際に短い効果音的なフレーズが挿入される演出が採用されています。この手法は、後のシリーズ作だけでなく、『ファミコン探偵倶楽部』シリーズなど、他社の推理アドベンチャーにも影響を与えたと言われています。

ディスクシステム用ソフトであるため、データ読み込みの際にロード時間が発生しますが、その間にはテレビ番組のアイキャッチのような短いカットが挿入される工夫が凝らされています。この演出は、ROMカセットで発売された次作『探偵神宮寺三郎横浜港連続殺人事件』にも引き継がれました。

グラフィック面では、当時のファミコンソフトとしては珍しく、ハードボイルドな雰囲気を前面に押し出しており、人物描写もアニメ調ではなく、リアルな劇画タッチで描かれています。ただし、被害者である高田桃子の顔はゲーム中に一切表示されません。また、主要登場人物の名前がすべて新宿を中心とした東京周辺の地名に由来している点も特徴的で、これはシリーズの定番設定として定着しました。

ストーリー概要

物語は、新宿中央公園でホステスの女性が全裸の絞殺体として発見されたことから始まります。目撃者がおらず捜査が難航する中、所轄の淀橋署警部である熊野参造は、旧知の仲である新宿歌舞伎町の探偵、神宮寺三郎に事件の調査を依頼します。

被害者はバー「イースト」の人気ホステス、高田桃子（享年21歳）であることが判明。彼女の同僚や常連客への聞き込みを進めるうち、桃子が新宿の資産家である柏木大介と親密な関係にあったこと、そして店長の代々木一が桃子に借金していたことなどが明らかになります。捜査線上に浮かんだ代々木は行方をくらまし、接触を試みた柏木は病死していたことが判明するなど、事件は錯綜していきます。

やがて、柏木にはかつて行方不明になった恋人との間に子供がいたこと、そして桃子がその子供であることが判明します。柏木は全財産を桃子に譲渡することを考えていましたが、それを知った人物の犯行が疑われます。

死体発見現場の状況から、桃子は別の場所で殺害され、後に公園に運ばれた可能性が浮上。しかし、ぬかるんだ現場に足跡や死体を引きずった痕跡がないという謎が残ります。捜査の過程で、被害者・桃子の恋人であった大学生の角筈一郎、そして柏木の秘書であった花園町子へと疑いの目が向けられます。

物語の核心では、財産問題と痴情のもつれが複雑に絡み合った真相が明らかになります。犯人は共犯者と協力し、ホテルの一室で桃子を殺害。そして、その死体をホテルの屋上からハンググライダーを使って公園に投下するという、当時としては非常に意外かつ斬新なトリックを用いていたことが告白により判明します。しかし、いくつかの不手際から計画は破綻し、最終的に神宮寺によって事件は解決へと導かれます。

移植版と評価

オリジナル版のディスクシステム版に加え、本作は様々なプラットフォームに移植されています。1999年にはPlayStation用ソフト『探偵神宮寺三郎アーリーコレクション』に収録されたほか、Wiiのバーチャルコンソールでも配信されました。また、携帯アプリとしてリメイクされ、その内容はニンテンドーDS用ソフト『探偵神宮寺三郎DS いにしえの記憶』（2007年）にも収録されています。

当時の評価としては、ゲーム誌『ファミコン通信』のクロスレビューで合計26点（40点満点）を獲得。「絵がものすごくいい」とグラフィックは高く評価された一方で、「ストーリー展開に必然性がない」といった厳しい意見も見られました。『ファミリーコンピュータMagazine』の読者投票では15.57点（25点満点）を記録し、大人っぽい雰囲気や劇画調のグラフィックは評価されつつも、ストーリーの平坦さを指摘する声がありました。後のゲーム誌『ユーゲー』では、RPG風のマップ移動を含むシステムに洗練されていない印象を受けるとしつつも、「たばこすう」コマンドに代表される作品全体の渋さは際立っていたと評されています。

本作は、黎明期の推理アドベンチャーゲームとして、またハードボイルドという当時珍しいテーマを扱った点で、その後のシリーズの礎を築いた意欲作と言えるでしょう。

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