提督たちの反乱

提督たちの反乱：アメリカ海軍と国防政策の激突

「提督たちの反乱」とは、1940年代後半にアメリカ海軍の複数の高官が、政府の国防政策に公然と反対した事件です。この出来事は、海軍と空軍の戦略思想の違い、そして国防予算の配分を巡る激しい対立を浮き彫りにしました。

事件の背景

この「反乱」の根底には、第二次世界大戦後の軍の再編と、核兵器時代の新たな戦略に対する異なる見解がありました。1943年、ジョージ・C・マーシャル将軍は陸軍と海軍の統合を提案。これが後の「統合論争」につながり、1947年の国家安全保障法制定へと進みます。この法律により、国家安全保障会議（NSC）、中央情報局（CIA）、そしてアメリカ空軍が新たに設立されました。

新設された空軍は、戦略爆撃、特に核兵器を用いた爆撃こそが、将来の戦争における勝利の鍵であり、敵の奇襲攻撃を抑止する力となると主張しました。そのため、空軍は長距離戦略爆撃機であるB-36ピースメーカーの開発を強く推進し、巨額の予算投入を要求しました。

これに対し、太平洋戦争での空母の活躍を目の当たりにした海軍は、空母を中心とした艦隊の重要性を主張。大型空母「ユナイテッド・ステーツ」の建造と、その運用に必要な艦隊の編成を求めました。海軍高官たちは、戦略爆撃のみでは戦争に勝てないと主張し、核兵器の無差別使用は「不道徳」であるとまで断言しました。

ユナイテッド・ステーツは、当時あらゆる核兵器を搭載可能な航空機を運用できるよう設計されており、計画では8隻の空母がそれぞれ14機の爆撃機を搭載し、計112発の核兵器を投下できる能力を持つとされていました。

ユナイテッド・ステーツ建造中止

海軍の主張を支持していた初代国防長官ジェームズ・フォレスタルは、空軍との対立に心身を疲弊させ、1949年3月に辞任。後任には、国防費削減を主張するルイス・A・ジョンソンが就任します。ジョンソンは、フォレスタルとは対照的に空軍の立場を支持し、就任からわずか1ヶ月後の4月23日に、議会に諮ることなくユナイテッド・ステーツの建造中止を決定しました。

このジョンソンの独断に対し、海軍長官ジョン・L・サリバンをはじめとする多くの海軍高官が抗議し辞任。さらにジョンソンは、海兵隊の航空部門を空軍に移管する計画を発表するなど、海軍への圧力を強めました。空軍は空母を時代遅れだと考えており、ジョンソンの政策は国防費削減にも合致すると考えられていました。

海軍側は、ジョンソンと空軍の計画を批判する動きを強め、アーレイ・バーク大佐率いる研究グループ“Op-23”がB-36の性能に関する批判的な資料を集め始めました。さらに、B-36を「10億ドルの大失敗」と批判し、契約者の不正を糾弾する「匿名の怪文書」が出回り、ジョンソン国防長官と航空機メーカーとの癒着疑惑まで浮上しました。また、ダニエル・V・ギャラリー海軍少将が「サタデー・イヴニング・ポスト」誌に掲載した記事も事態を悪化させ、ジョンソン長官はギャラリーを不服従罪で軍法会議にかけるよう要求する事態にまで発展しました。

提督たちの反乱のクライマックス

1949年末、「提督たちの反乱」は一つのクライマックスを迎えます。ジョンソンの独断に抗議して辞任したサリバンの後任であるフランシス・マシューズ海軍長官は、騒動の責任を問う形で複数の海軍将官を解任。制服組トップであるルイス・デンフェルド海軍作戦部長も解任される事態となりました。

議会公聴会

一連の騒動を受け、下院軍事委員会（HASC）が調査を開始し、公聴会が開かれました。調査の結果、ジョンソン国防長官やスチュアート・サイミントン空軍長官（航空機業界出身）の不正行為は認められなかったものの、B-36の性能評価を行う兵器システム評価グループ（WSEG）が新設され、以降の兵器開発・調達は、国防総省や統合参謀本部主導で四軍統合的に評価を行うこととなりました。

ユナイテッド・ステーツの建造中止については、「大型空母は海軍にとって必要な艦船である」と結論付けられ、海軍は大型空母の建造に議会の承認を得ることに成功しました。下院軍事委員会は、ジョンソンの独断を支持した陸軍と空軍の参謀総長の見識に疑問を呈し、ジョンソンが議会に諮らずに建造中止を決定した行為を強く非難しました。一方で、海軍側の「匿名の怪文書」を作成・流布させたセドリック・ワースは解雇されました。

下院軍事委員会は、軍の統合的な管理運用についても勧告を行い、四軍の統合を支持しながらも、その拙速な進展に警鐘を鳴らしました。また、デンフェルド大将の解任は不当であったと結論付けました。

ユナイテッド・ステーツ建造中止の余波

「提督たちの反乱」は、国防政策における軍種間の対立、議会と行政の関係、そして軍人としての責任を浮き彫りにした事件として、アメリカの歴史に刻まれました。この事件は、その後のアメリカの軍事戦略や国防予算配分に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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