摧邪輪

摧邪輪（ざいじゃりん）

概要

『摧邪輪』は、鎌倉時代初期の建暦2年（1212年）に高弁（明恵上人）によって著された仏教の著作です。この書は、法然の『選択本願念仏集』に対して、その教義を邪見であると批判するために書かれました。全3巻から成るこの著作は、「邪輪を摧く」という意味が込められており、法然の教えが仏教の本質から逸脱しているとの立場を示しています。また、原文は漢文で記されています。

筆者：高弁について

華厳宗の中興の祖とされる高弁は1173年に平重国の子として生まれました。文治4年（1188年）に出家し、戒律の重要性を唱えながら生涯を通じてその護持に努めました。建永元年（1206年）には後鳥羽上皇の命によって京都に高山寺を建立し、教義の普及に尽力しました。彼の思想は、仏教の戒律を重視する点で特徴的でした。

執筆の背景

高弁が『摧邪輪』を書くに至ったのは、法然が亡くなった直後であり、その時点で彼は法然に対して深い尊敬を抱いていました。しかし、法然の著作『選択集』を知るにつれ、念仏信者の間で伝わる邪見がこの書から生じていると考えるようになりました。こうした思索の変化が、批判的立場に転じる要因となったのです。特に、彼は菩提心の重要性を訴え、法然がそうした心を否定している点に不満を感じました。

法然批判

高弁は、『選択集』の中で特に菩提心が意図的に除外されていること、そして他宗派を「群賊」と表現したことに対して厳しい批判を展開しました。彼はこの2つの過失を指摘し、その内容をさらに深く掘り下げ、法然の教義が大乗仏教の道を外れていると主張しました。彼の主な論点は、菩提心は悟りへの根本的な志向であるべきだということであり、これを否定する法然の考えは問題であるとされました。

高弁の主張

高弁の中での菩提心についての議論は、仏道修行の根幹をなすものであり、彼はそれを否定することは仏教の本旨を否認することだと訴えました。高弁は、法然の考えが浄土教の信心と菩提心を著しく乖離させていると感じ、その主張が仏教の基本的な概念に反するものであると論じました。また、彼は『選択集』における解釈の不備を指摘し、菩提心を重視した宗教的な教義の見直しを求めました。

本書の意義

『摧邪輪』は、専修念仏に対する最初の教義的批判書となり、浄土教と聖道門との対立を象徴的に表しています。法然の教えに対して具体的な批判を行うことで、彼自身の菩提心の重要性を主張し、大乗仏教の理念に立ち返るべきだと訴えました。高弁によるこの批判は、その後の仏教の考え方に影響を与えることとなりました。

反論と影響

『摧邪輪』に対しては、法然の信者たちからも数多くの反論が返されました。特に、了慧の著作などは高弁の批判に応じたものであり、浄土宗の見解を再確認させる内容となっています。また、親鸞の『教行信証』も高弁の批判に対する対応として書かれたとされています。こうした議論は、浄土宗と聖道門との緊張関係を一層際立たせました。

書物としての流通

『摧邪輪』は、美しい写本と共に出版もされており、時代を超えて多くの信者に支持されてきました。これにより高弁の思想は、鎌倉時代の仏教の重要な一環として今日まで受け継がれています。

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