摩利按世

摩利按世氏は、日本の女性声優であり、また随筆家としても知られる多才な人物です。旧芸名は松沢和子。1946年4月18日に東京都で生を受け、2014年6月18日に68歳で惜しまれつつこの世を去りました。東京都立松原高等学校を卒業後、専門学校TTCやフリータレント集団「壇林」での活動を経て、最終的に多くの人気声優が所属する青二プロダクションに籍を置きました。

声優としてのキャリアは多岐にわたり、アニメ、ゲーム、吹き替え、そしてナレーションと、様々な分野でその独特な声を響かせました。特にアニメーション作品では、黎明期から活躍し、多数のキャラクターに命を吹き込みました。1979年にはSFアニメの金字塔『宇宙空母ブルーノア』でタラ役、『円卓の騎士物語 燃えろアーサー』ではエレイン役などを担当。同年に放送が開始された国民的アニメ『機動戦士ガンダム』では、ジオン公国軍突撃機動軍司令官キシリア・ザビの副官、シムス・アル・バハロフ役を演じ、その存在感を示しました。『銀河鉄道999』にも複数の役で出演するなど、当時の人気作品に欠かせない存在でした。後年には『まんが日本史』といった歴史アニメにも出演しています。

ゲーム分野でも、『機動戦士ガンダム』関連作品への出演が目立ちます。特に人気シミュレーションゲームシリーズである『機動戦士ガンダム ギレンの野望』では、1998年の初代作から2002年の『ジオン独立戦争記』まで、シムス・アル・バハロフ役として参加。さらに、2005年のアーケードゲーム『機動戦士ガンダム0079カードビルダー』や、2012年のオンラインゲーム『機動戦士ガンダム オンライン』にも同じ役で出演しており、四半世紀近くにわたって同一キャラクターを演じ続けるという、声優としては稀有なキャリアを築きました。これは摩利氏の声が、シムスというキャラクターに深く根付いていたことの証と言えるでしょう。

吹き替えの分野でも活動しており、人気海外ドラマ『プリズン・ブレイク ファイナル・ブレイク』では、ダディ役の日本語吹き替えを担当しました。また、テレビ番組のナレーションも数多く手掛け、テレビ東京で放送された『自然環境保護銀組』や『東京レポート』、NHKの『21世紀森の形』など、特に自然や環境に関連するドキュメンタリーや情報番組で、落ち着いた信頼感のある語りを披露しました。

摩利氏は声優業と並行して、執筆活動、特に随筆家としても才能を発揮しました。自然や植物をこよなく愛し、その観察に基づいた豊かな感性で綴られた文章は多くの読者を魅了しました。1998年に希林館から出版された『花巡記』は、山野の植物をテーマにしたエッセイ集として知られています。また、詩作にも力を入れており、2012年には揺籃社より『詩画集 心のふるさと』を刊行。工房シオンからは詩集シリーズも複数出版するなど、文学的な創作活動も精力的に行っていました。

さらに、摩利氏は「かたりライブ」と呼ばれる朗読とパフォーマンスを組み合わせた独自の表現活動や、童話制作、華道など、非常に多岐にわたる特技を持っていました。これらの活動は、声優として培った表現力と、随筆家・詩人としての豊かな想像力が融合したものであり、彼女の芸術家としての奥行きを示しています。

2014年6月18日、摩利按世氏は病気療養中にその生涯を終えました。68歳でした。長年にわたり声優として、また随筆家、そして多様な表現者として活動した摩利氏の死は、多くのファンや関係者にとって大きな悲しみとなりました。アニメ史に名を刻んだキャラクターの声、心に響くナレーション、そして自然の美しさを伝えた随筆など、摩利按世氏が残した功績は今もなお語り継がれています。

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