撚糸工連事件

撚糸工連事件：戦後日本の汚職事件

撚糸工連事件は、日本撚糸工業組合連合会（以下、撚糸工連）の元経理課長による横領事件が発端となり、東京地方検察庁特別捜査部が1985年から1986年にかけて摘発した汚職事件です。事件は、通商産業省（現経済産業省）の幹部2名の収賄容疑に発展し、最終的に11人が逮捕、うち7人と任意で事情聴取されていた現職国会議員2名を含む9名が起訴される事態となりました。

事件の概要

事件は、撚糸工連職員の横領事件の捜査から、同工連幹部の横領、そして国家公務員や現職国会議員への贈収賄へと芋づる式に発展しました。背景には、繊維業界が不況にあえぐ中、「設備共同廃棄事業」の廃止阻止を目論み、所管官庁である通産省の職員や政治家への献金・接待攻勢がありました。

設備共同廃棄事業とは、過剰設備を廃棄するために国が設備を買い上げる制度ですが、設備を持つことが利権化し、設備の自然淘汰が進まないという批判がありました。撚糸工連関係者は、この制度維持のため、国会議員を利用して国会審議で通産省担当者を追及したり、通産省へ直接圧力をかけることを期待して働きかけを行いました。

その結果、現職の国家公務員2名と繊維族議員2名が有罪判決を受けることとなりました。

事件の経過

1985年9月11日：撚糸工連が元経理課長を詐欺罪等で東京地検特捜部に告訴。
1985年10月下旬：撚糸工連理事長らが工連資金を私的口座に移し株取引をしている事実が発覚。
1985年12月3日：東京地検特捜部、元課長を2億7000万円分の業務上横領容疑で逮捕。
1986年2月13日：撚糸工連理事長ら4人を4億2000万円分の融資詐欺容疑で逮捕。元課長も再逮捕。
1986年3月6日：撚糸工連理事長を約7億6000万円の業務上横領容疑で再逮捕。
1986年3月26日：通商産業省工業再配置課長、中小企業庁組合兼調整係長を収賄容疑で逮捕。撚糸工連常務理事を贈賄と証拠隠滅容疑で逮捕。
1986年4月16日：民社党の横手文雄衆議院議員を受託収賄容疑で任意で事情聴取開始。
1986年4月25日：自民党の稲村佐近四郎衆議院議員を収賄容疑で任意で事情聴取開始。
1986年5月1日：東京地検特捜部、横手を受託収賄罪で、稲村を収賄罪でそれぞれ在宅起訴。
その後、裁判を経て、関係者に有罪判決が下されました。

事件の詳細

設備共同廃棄事業の不正

撚糸工連理事長らは、設備共同廃棄事業の機械買い上げ条件を悪用し、他の企業が廃棄または倉庫に保管していた中古機械に、工連が管理していた空番号を付与。あたかも共同廃棄事業の対象機械であるかのように偽装工作を行い、融資金を詐取しました。

撚糸工連元課長の使い込み

1985年、撚糸工連で17億円（20億円とも）にものぼる使途不明金が発覚。元課長は、株の信用取引や自身が経営するプロダクションの資金繰りのため、利付商工債券を横領。組合に無断で証券会社に預けた疑い。

通産省職員の逮捕

撚糸工連常務理事は、元課長の横領発覚を恐れ、通産省課長らへの飲食代支払いの事実隠蔽を画策。しかし、特捜部は不明金の一部が通産省元課長や中小企業庁元係長への飲食代や接待に使われていた事実を突き止め、贈収賄容疑で逮捕しました。

横手裁判の迷走

横手代議士は、受託収賄の嫌疑を否認し続けましたが、一審で有罪判決。控訴審で逆転無罪、最高裁で破棄差戻、差戻審で有罪、再び最高裁に上告し有罪が確定しました。裁判では、現金授受の事実認定をめぐり、撚糸工連元役員両人の証言の信憑性が争点となりました。

事件の影響

1986年の衆参同日選挙において、横手代議士が所属していた民社党は大敗。撚糸工連事件に対する有権者の不信が選挙結果に影響したとされています。

事件は、政界・官界・経済界の癒着構造を浮き彫りにし、国民の政治不信を招きました。また、繊維業界の構造的な問題点や、行政の監督責任の甘さが露呈する結果となりました。

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