撤退

撤退とは

撤退（てったい）とは、軍事作戦において、ある部隊が作戦地域から後方へ移動することを指します。これは単なる戦術的な後退とは異なり、戦略的な判断に基づいた行動です。撤退は、戦況が不利になった場合や、作戦目標の変更、部隊の再編成など、さまざまな理由で行われます。

語源

英語の「withdrawal」が語源であり、もともとは銀行からお金を引き出すという意味でした。14世紀の「withdraught」や1640年代の「withdrawment」がその起源です。また、ラテン語の「abscedere」（abs（離れて）＋cedere（行く））も撤退の意味を持ちます。

戦争における撤退

日本では、撤退を婉曲的に「転進」と表現することがありました。敵の攻勢や治安の悪化により、全軍撤退の最終段階では、残存部隊の戦闘力が低下し、危険な状況に陥ることがあります。

撤退は、その地域を保持できなくなったというネガティブな意味合いが強い一方、軍事的・政治的な勝利により、その地域を保持する必要がなくなった場合は「撤収」という言葉が使われます。ただし、両者は同義で使われることもあります。

例：
1973年、米軍はベトナムから撤退しました。
米軍は、対ソ戦略拠点としての意味を失ったアイスランドから撤収しました。
2021年9月、アメリカ軍はイラクでの戦闘任務を終了しましたが、撤退（撤収）はせず、訓練・支援を継続しました。

一部の報道機関では、自衛隊の撤退を「撤兵」と表現することがありますが、これは定義された用語ではありません。

退き口（のきくち）

戦国時代には、撤退を「退き口」と呼んでいました。金ヶ崎の戦いにおける織田信長の退き口や、関ヶ原の戦いにおける島津氏の退き口は有名です。島津氏は、少数の部隊が死兵となり、敵を足止めする「捨て奸（すてがまり）」という戦術を用いました。

戦略的撤退（Tactical withdrawal）

戦略的撤退とは、敵に損害を与えながら行う撤退のことです。ブービートラップの設置、砲撃地点への誘導、焦土作戦などが行われます。

偽装退却（Feigned retreat）

偽装退却は、撤退に見せかけて敵を誘い込み、有利な状況を作り出す戦術です。ヘイスティングズの戦いにおけるウィリアム征服王や、孫子の兵法にもその記述が見られます。モンゴル軍のパルティアンショットも偽装退却の一種です。

敗走（Rout）

敗走とは、戦いに負けて逃げる状態を指します。部隊の秩序が失われ、混乱状態になることを潰走（かいそう）といいます。計画的な撤退は、「retiring from the field」や「withdrawal」と表現されます。

企業における撤退

企業が不採算などの理由で特定の事業や地域から事業を止める場合も「撤退」と言います。事業撤退には、主に以下の2つがあります。

1. 事業売却による撤退: 当該事業組織を他の企業へ売却する方法。
2. 清算による撤退: 事業そのものを清算する方法。

製造事業の撤退では、製造物責任法により、過去の製品に対する責任を負う必要があります。事業売却の場合は、メンテナンス等のサービスもまとめて売却することが多いですが、清算の場合は、撤退後も自社でメンテナンス部門を維持する必要があります。

保険事業のように将来のサービスを契約する事業の場合も、既存契約の継承先を決定する必要があります。交通機関の共同運行路線では、過去に撤退した事業者が予約や発券業務を継続する場合もあります。

企業活動に限らず、スポーツ界でも、選手の獲得や大会の招致を断念する場合にも「撤退」という言葉が使われます。

関連項目

戦争
清算
撤収
* カタバシス：ギリシャ語で「下がって行く」の意。軍隊の退却、冥界に行くことを意味します。反対に上ることをアナバシスと言います。

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