政治学大綱

『政治学大綱』の概要

『政治学大綱』は、政治学者ハロルド・ラスキが1925年に発表した国家論の重要な著作です。ラスキは1893年にイギリスに生まれ、第二次世界大戦後には労働党の活動に従事しながら、政治学における当時の中心的な思想家と位置づけられています。彼はまた、第一次世界大戦中にアメリカのハーバード大学で講義を担当していた経験も持ちます。この著作は、彼の政治活動と学問的探求の交差点で展開されました。

ラスキは国家の役割を、共同体における大衆の社会善の最大化と定義しました。この社会善は、共同体で生活するために必用な理性的な人間の欲求を伴う社会性から成り立っています。この観点から、ラスキは極端な利己的欲求は国家の目的には含まれないと主張しました。彼は、政治学の伝統的な理論を踏まえつつ、国家を社会とは異なる概念として位置づけました。

特にルソーやヘーゲルといった思想家が提唱した共同体の一般意志という概念を否定しました。ラスキによれば、そのような共同の意志が個々の自由を制約し、強制的に個人を束縛するものであると考えていたためです。他方で、彼は個人こそが社会の根本的な構成要素であるとし、国家は個々の個性の発展を支える役割を果たすべきだと論じました。

このため、国家は人々の自己実現のために必要な生活水準、教育、労働の機会を保障する責任を負っています。さらに、個人は社会の善を実現するために共同体に貢献することで、所有権などの正当な権利を認められることになります。しかし、所有権に起因する貧富の差が大きくなりすぎると、それは社会に不正な統治をもたらす危険性があると強調されます。

このように、ラスキは社会の利益に対する集団の利害を調整しながら、個人の自由を守るために権力を分散的に配置することが、理想的な国家の姿であると論じました。彼の見解は、個人と社会の関係に新たな視点をもたらし、現代政治に多くの影響を与えました。

関連項目

• - リベラリズム: 個人の自由を重視する観点から、ラスキの思想と類似点があります。

参考文献

• - 丸山眞男『現代政治の思想と行動』上・下巻（未來社、1956年-57年）
• - 横越英一『ハロルド・ラスキ研究』
• - 日高・横越訳『政治学大綱』（法政大学出版局、1952年）

ラスキの『政治学大綱』は、国家と社会のダイナミクスを理解するための重要な参考資料として、現在でも多くの研究に活用されています。

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