救国戦線評議会

救国戦線評議会（FSN）とは

救国戦線評議会（Frontul Salvării Naţionale, FSN）は、1989年のルーマニア革命直後に、ルーマニア共産党政権を倒して成立した暫定的な統治組織です。当初は複数政党制移行への過渡的な役割を担う存在でしたが、後に政党化し、ルーマニアの政治に大きな影響を与えることになりました。日本語では救国戦線とも呼ばれます。

FSNの成立と政権掌握

1989年12月22日、ルーマニア革命の混乱の中でFSNは結成されました。共産党政権から権力を奪取したFSNは、イオン・イリエスクを議長（暫定国家元首）に据え、ペトレ・ロマンを首相に任命しました。当初のFSNの主要メンバーには、ドゥミトル・マジル、シルヴィウ・ブルカン、ミルチャ・ディネスク、イオン・カラミトルなどがいました。

FSNは、一党独裁制の廃止と複数政党制に基づく選挙の実施を宣言。これにより、民族農民党（現在のキリスト教民主民族農民党）と国民自由党といった、共産党後の主要なルーマニア人による政党が誕生しました。当初は選挙への候補擁立を否定していましたが、革命から1ヶ月後には政党化し、自由選挙への参加を表明します。しかし、旧共産党員を多く含むFSNの政党化は、共産主義からの脱却を懸念する国民も生み出しました。

暫定政府と選挙

1990年1月下旬と2月下旬には、国民自由党と民族農民党による反FSNデモが発生。これに対し、イリエスクは労働者階級に「国を動揺させるファシスト勢力」への批判を呼びかけるとともに、FSNへの支持を訴えました。その後、FSNは他政党の暫定政府への参加を容認し、新たな統治組織として暫定国家統一評議会（CPUN）が発足します。CPUNは1990年2月から5月の選挙までの間、国家運営を担いましたが、実質的な支配はFSNによって維持されました。

1990年5月20日、自由選挙が実施され、イオン・イリエスクが大統領に就任。イリエスクは他の東欧諸国とは異なり社会主義的な政策を維持する姿勢を示したため、選挙におけるFSNの参加に反対する大規模なデモ（ゴラニアド）が4月から7月にかけて発生しました。このデモは最終的に暴力的に鎮圧されました。

初のポスト共産党政権

1990年5月20日の議会選挙では、FSNが上下両院で過半数の議席を獲得し圧勝しました。同時に行われた大統領選挙でも、イオン・イリエスクが大統領に選出されました。新政府の閣僚は旧共産党員で占められ、ペトレ・ロマンが首相に留任し、経済改革に着手しました。

分裂と選挙での大敗

1992年になると、FSN内部でイリエスクとロマンの対立が表面化します。同年4月7日、イリエスクを中心とする主流派がFSNから離脱し、民主救国戦線（後の社会民主党）を設立。同年の議会選挙では、経済政策の失敗などからFSNは大敗を喫しました。

一方、ロマンと民主派の議員が残ったFSNは、1993年5月28日に民主党・救国戦線評議会（PD-FSN）に改名し、さらに民主党へと名称を変更。その後、自由民主党と合流し、民主自由党を結成しました。

FSNの遺産

FSNは分裂を経たものの、ルーマニアの政治に大きな影響を与え続けています。FSNから派生した社会民主党と民主自由党は、1992年の分裂以降、政権を争い、時に連立政権を組んでいます。2004年から2014年まで大統領を務めたトライアン・バセスクも、FSNのメンバーとして政界入りし、運輸大臣を務めた経験を持ちます。

FSNの変遷は、ルーマニアの政治史における重要な転換点を示しており、その後の政治状況を理解する上で欠かせない要素となっています。

選挙結果

1990年5月20日の選挙でFSNは勝利し、議会で多数派を占めました。

関連項目

ルーマニア革命 (1989年)
社会民主党 (ルーマニア)
民主自由党 (ルーマニア)
イオン・イリエスク

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