イオン・イリエスク

イオン・イリエスク：ルーマニアの激動の歴史を歩んだ政治家

イオン・イリエスク（1930年3月3日 - ）は、ルーマニアの政治家であり、同国の大統領を二度（初代、3代）務めた人物です。彼は、上院議員、青少年問題担当相、救国戦線評議会議長、社会民主党議長など、様々な要職を歴任し、ルーマニアの政治史において重要な役割を果たしました。

生い立ちと共産党時代

カララシ県オルテニツァで生まれたイリエスクは、ブカレスト工科大学を卒業後、モスクワ大学エネルギー研究所に留学しました。1944年に共産主義青年連盟に入り、1953年にはルーマニア共産党に入党しました。その後、青年連盟中央委員会書記、党中央政治局員、青少年問題担当相などを歴任し、ニコラエ・チャウシェスクの後継者として目されるようになりました。しかし、1971年にチャウシェスクと共に訪問した中国で文化大革命を目の当たりにしたことから、チャウシェスクとの間に路線対立が生じました。その後、イリエスクは国政から排除され、地方の役職を経て、1984年には中央政治局員を外され、出版社の勤務となりました。この時期、彼は秘密警察の監視対象となり、1987年には情報自由化を求める論文を発表したことで、さらに不遇の時代を送ることになりました。

ルーマニア革命とその後

1989年のルーマニア革命で共産党政権が崩壊すると、イリエスクは救国戦線評議会の議長に就任し、暫定的な国家元首となりました。その後、救国戦線を政党化し、正式に国家元首に就任しました。1990年5月には、ルーマニア初の複数政党制・秘密選挙による自由選挙で大統領に当選しました。1991年には救国戦線を脱退し、民主救国戦線を結成、1992年の大統領選挙で再選を果たしました。1993年には、民主救国戦線を社会民主主義党（現社会民主党）に改称し、党首となりました。1996年の大統領選挙では中道右派のエミル・コンスタンティネスクに敗れましたが、2000年の大統領選挙で再び大統領に返り咲き、2004年に任期満了で退任しました。

革命「乗っ取り」疑惑と起訴

イリエスクの政治家としてのキャリアは、常に疑惑と批判にさらされてきました。特に、1989年のルーマニア革命における救国戦線の役割については、多くの疑問が残されています。チャウシェスクが逃亡した後の銃撃戦は、革命最大の謎とされ、イリエスクの側近だった人物が「テロリストの攻撃」という公式発表がでっち上げだったと証言したことで、救国戦線が革命を乗っ取ろうとしたのではないかという疑惑が浮上しました。2018年には、検察当局がイリエスクを「革命中の混乱を招き、800人以上の死者を出した」として人道に対する罪で起訴しました。しかし、真相を解明するための証拠が乏しく、裁判での立証は困難であるとされています。

人物とその他

イリエスクは1951年にニーナ・シュルバネスクと結婚し、ルーマニア語、英語、ロシア語を話します。

関連事項

ルーマニア革命 (1989年)
救国戦線評議会
社会民主党 (ルーマニア)

外部リンク

Ion Iliescu official biography（公式サイト）（ルーマニア語）
* Ion Iliescu's blog（ルーマニア語）

イリエスクは、ルーマニアの激動の歴史の中で重要な役割を果たした人物であり、その功績と疑惑は、現在も議論の対象となっています。

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