救貧法

イングランドの救貧法について

イングランドの救貧法（Poor Laws）は、近世から現代にかけての社会制度であり、貧民の増加による社会的不安を解消するために制定されました。この制度は、1531年に始まった救貧の取り組みを起源とし、エリザベス救貧法を含む数多くの改正を経て、福祉国家イギリスの礎となったと言われています。救貧法は、他国の福祉制度の導入に際しても影響を及ぼした重要な法制です。

救貧法の前史

救貧法が実施される以前、特に宗教改革前は、貧困対策は教会が担っていました。修道院やギルドを通じて「貧しき者」たちへの給付が行われ、キリスト教の教えから、貧困は神の意にかなった状況とされ、援助は善行とみなされていました。そのため、裕福な人々は自発的に貧困救済に努め、地域社会での名誉を得る手段でもありました。

宗教改革の影響

宗教改革の波は、救貧の在り方を大きく変えました。マルティン・ルターは、物乞いを社会の怠惰と見なし、積極的に労働を奨励しました。この考えはカルヴァンにも共鳴し、労働を神聖視する流れが広がりました。これに伴い、イングランドでも貧困者に対する意識が変化し、特に農地の囲い込みによって貧富の差が広がり、貧困層の増加が問題視されるようになります。

救貧法の初期

16世紀に入ると、浮浪者の数が増し、社会問題として取り上げられるようになります。ヘンリー8世は1531年に、貧民を病気による労働不能者と怠惰による労働拒否者に分類し、救貧の制度を整備しました。また、物乞いを禁止し、各教区単位で救貧の仕組みを作ることにしました。

1536年にはこの制度が法制化され、労働不能な貧民には食糧や衣服が与えられる一方で、健常者には強制労働が課されました。この制度は、後に救貧税を徴収する仕組みが整えられ、特に貧民の数や状況の把握が求められるようになったのです。

エリザベス救貧法の成立

1597年、最初の総合的救貧法が成立し、1601年にエリザベス1世による改正が行われました。この法の特徴は、国家による救貧行政の確立であり、中央集権的なアプローチがとられました。監督官が設置され、救貧税の徴収や管理が行われましたが、目的は治安維持であり、貧民の待遇は厳しいものでした。こうした制度は、単なる救済ではなく、社会の安定を図る手段として機能しました。

18世紀から19世紀の改革

18世紀中頃、工業化の進展と共に中産階級が成長し、社会の目は救貧制度に向けられるようになりました。ギルバート法により、懲治院の機能を縮小し、自宅での就労が奨励される一方、スピーナムランド制度は、物価に応じた週給制度を導入しました。

19世紀に入ると、新救貧法が施行され、救貧行政はさらに厳しくなりました。しかし、長い間にわたる厳しい環境に対する批判が強まり、やがて懲治院の改革が求められるようになり、最終的には1948年に国民生活扶助法として廃止されるに至りました。

国際的な影響

イングランドの救貧法の理念は、他国に波及しました。多くの国がこの制度を参考にし、世俗的な生存権を考慮した社会保障制度の設計に寄与したのです。例えば、フランスやドイツなどにおいても、公的救済が法律に明記されることになりました。

このように、イングランドの救貧法は単なる国内の政策に留まらず、国際的な福祉制度の発展に貢献したといえるでしょう。

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