教会史

教会史：キリスト教発展の多様な視点

教会史は、キリスト教の歴史を、その後の教会形成や教会観の確立という視点から研究する神学の一部門です。キリスト教の歴史を、宗教史、文化史、精神史といった側面から考察するキリスト教史やキリスト教思想史とは異なるアプローチを取ります。

教会史の定義：多様な解釈

教会史の定義は、時代や学派によって異なっています。ローマ・カトリックでは、伝統的には教会をキリストの贖罪の業を未来永劫に保つための組織と捉え、教会史を啓示の原理に基づく学問と定義する見解がありました。しかし近年では、一般史学の実証科学的方法を用いて教会を研究する神学部門という定義も提唱されています。

プロテスタントにおいては、さらに多様な解釈が見られます。教会史を一概念の弁証法的展開の歴史と捉える見解や、世界における福音の感化の歴史、聖書解釈の歴史、そして活動を続けるキリストの歴史など、様々な角度からの定義が提示されています。これらの多様な解釈は、教会史研究の豊かさと複雑さを示しています。

教会史の歴史：古代から現代まで

古代教会史

初期教会の成立と発展に関する主要な資料は、『福音書』と『使徒行伝』です。初期の教会史家としては、全10巻の『教会史』を著したエウセビオスが挙げられます。彼の著作は、その後ルフィヌスによってラテン語に翻訳され、増補版も作成されました。

5世紀には、ソクラテス・スコラスティコス、ソゾメノス、テオドレトスといった歴史家が、それぞれ独自の視点から教会史を記述しました。彼らの著作は、古代教会の政治的、社会的情勢、そして異端思想の動向など、多角的な情報を提供しています。

中世教会史

中世においては、カッシオドルスによる教会史の要約や、グレゴリウス1世によるフランク教会史、そしてベーダによる『イギリス教会史』などが重要な文献として残されています。これらの著作は、西ローマ帝国滅亡後の教会の変遷や、地域ごとの特色を反映した教会史観を示しています。14世紀には、トロメーオによる大部の教会史も編纂されました。

近世・近代教会史

宗教改革期には、フラキウス・イリリクスやバロニウスといった歴史家が、当時の宗教的・政治的対立を背景に教会史を記述しました。「近代教会史の父」と呼ばれるJ・L・フォン・モースハイムは、教派間の対立を超えて、教義や制度を歴史的に考察することで、教会史研究に新たな方向性をもたらしました。

19世紀には、ヘーゲルの歴史哲学の影響を受けたF・C・バウアが、弁証法的解釈に基づいた教会史観を提示しました。彼の思想は、後の教会史研究にも大きな影響を与えました。

近現代教会史

20世紀以降、英語圏ではフィリップ・シャフやウィリストン・ウォーカーの『教会史』が広く知られています。また、アリウス論争については、ヘンリー・メルヴィル・グワトキンによる研究が著名です。日本語文献としては、園部不二夫の著作などが挙げられます。

結論：多様な視点と継続的な探求

教会史は、単なる出来事の羅列ではなく、教会の内的発展や神学的解釈を踏まえた上で、歴史的事実を多角的に考察する学問分野です。様々な視点と解釈が存在する中で、教会史研究は現代においても継続的に発展し続けています。その多様性と奥深さこそが、教会史研究の大きな魅力であり、今後も新たな知見が得られることを期待しています。

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