散歩、日傘をさす女性

クロード・モネ『散歩、日傘をさす女性』：印象派の光と影

クロード・モネの1875年制作の絵画『散歩、日傘をさす女性』(La Promenade, la femme à l'ombrelle)は、印象派を代表する名作の一つです。別名『散歩、日傘の女』『日傘の女性、モネ夫人と息子』とも呼ばれ、モネの最初の妻であるカミーユと、彼女の長男ジャンが草原を散歩する様子を描写しています。

この作品は、下から見上げる構図によって、日傘を頭上に掲げるカミーユと、その傍らに立つジャンを捉えています。カミーユの白いドレスは、逆光によって青紫色に染まり、戸外で制作された作品特有の、空気感と光による繊細な色彩表現が際立っています。特に、ジャンが被る帽子には、モネの他の作品である『アルジャントゥイユのヒナゲシ』や『昼食』と同様の赤色の縁取りとリボンが見られ、作品間の繋がりを感じさせます。

1875年頃、モネは本作のような、日傘をさした女性と子供をテーマにした作品を数多く制作しています。神奈川県箱根町にあるポーラ美術館が所蔵する『散歩』(La Promenade)などもその一例です。これらの作品は、モネが自然光と人物を融合させる試み、そして家族への愛情を表現した、重要なシリーズと言えるでしょう。

モネ後期の試みと『戸外の人物習作』

1886年、モネは『戸外の人物習作（左向き）』（別名『日傘の女（左向き）』）を描きます。これは、『散歩、日傘をさす女性』の構図を意識的に踏襲した作品です。前者では、日陰ながらもベールの下からカミーユの表情が見て取れますが、後者ではモデルとなったオシュデ夫妻の三女シュザンヌの表情は曖昧です。

モネはこのような試みについて、批評家のテオドール・デュレに「私が納得するままに、風景画のように戸外の人物を描く」と語っています。この言葉は、モネが人物描写においても、風景画と同様に光と影、そして空気感の表現に重点を置いていたことを示唆しています。 彼はシュザンヌを気に入ってモデルとしてよく起用していましたが、一緒にいたオシュデ家の四女ジェルメーヌは、後年「画家の注文が多すぎてモデルは疲弊した」と回想しています。

『戸外の人物習作（右向き）』（別名『日傘の女（右向き）』）も、ほぼ同時期に制作されたとされ、モデルは同じくシュザンヌで、表情はほとんど判別できません。『戸外の人物習作（左向き）』と『戸外の人物習作（右向き）』は、モネが人物描写における新しい表現方法を探求した過程を示す重要な作品群と言えるでしょう。

まとめ

『散歩、日傘をさす女性』は、モネの印象派における重要な位置づけを示す作品であり、彼の技法と主題への探求を物語っています。逆光の中で生まれる青紫色のドレス、繊細な色彩、そして家族への愛情が感じられる構図など、あらゆる要素が調和して、この作品に独特の美しさと魅力を与えています。関連作品との比較検討を通して、モネの芸術的進化とその時代背景を理解することができるでしょう。

参考文献

安井裕雄『もっと知りたいモネ 生涯と作品』東京美術、2010年
中野京子『印象派で「近代」を読む 光のモネから、ゴッホの闇へ』NHK出版、2011年

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