文匯報 (上海)

文匯報は、中華人民共和国の上海市で発行されている主要な新聞の一つです。現在の発行主体は、上海のメディアグループである文匯新民報業集団です。

この新聞の歴史は長く、最初の発行は日中戦争のさなかの1938年1月25日に上海で産声を上げました。創刊当初、文匯報は日本の侵攻に抵抗する抗日運動を強く支持する論調を採っていました。その反体制的な姿勢は、当時の親日政権であった汪兆銘政権から問題視され、創刊からわずか1年後の1939年には発行停止を余儀なくされます。

第二次世界大戦が終結した後、文匯報は1945年9月に活動を再開しました。しかし、今度は中国国内で激化していた国共内戦に対するその報道が、国民政府（蔣介石率いる中国国民党政権）の不満を買うこととなります。文匯報は内戦に反対する立場を表明し、国民政府の政策を批判したため、1947年5月24日に再び停刊処分を受けました。

中国共産党が上海を掌握した後、文匯報は三度目の復刊を果たします。それは1949年6月21日のことでした。これ以降、文匯報は中華人民共和国の体制下で公的なメディアとしての役割を担っていくことになります。

文匯報の紙面は、中国の近現代史において極めて重要な役割を果たしたことがあります。最も特筆すべきは、文化大革命の発端となった論文を掲載したことです。1965年11月10日、文匯報は姚文元による「新編歴史劇『海瑞罷官』を評す」というタイトルの長大な評論を掲載しました。この論文は、当時の北京市副市長で歴史家でもあった呉晗が創作した京劇「海瑞罷官」を厳しく批判するものでした。表向きは学術的な演劇評論の体裁をとっていましたが、実際にはこの劇を当時の政治的状況（例えば彭徳懐の失脚など）の暗喩と見なし、体制内の一部の指導者層を攻撃する意図が込められていました。この姚文元論文の掲載は、毛沢東らによって仕組まれた文化大革命の発動に向けた重要な布石であり、これ以降、中国全土で思想批判と権力闘争が本格化していく契機となったのです。文匯報がこの「第一弾」となる論文を掲載したことは、歴史的に大きな影響を与えました。

また、文匯報は1976年に発生した四五天安門事件に関連する出来事にも間接的に関与しています。この年3月5日、文匯報は中国の模範的人物とされる雷鋒を記念する報道を行いました。この報道の中で、当時死去したばかりで国民からの追悼と支持を集めていた周恩来首相が雷鋒に寄せた激励の言葉を掲載しました。しかし、これは当時の政治情勢においては極めて敏感な内容を含んでいました。南京市の一部の学生や労働者は、この3月5日付の文匯報記事における周恩来の言葉の掲載をいち早く察知し、これに関する動きが活発化しました。これを受けてか、文匯報は3月25日前後には、紙面から問題となった周恩来の激励の言葉を削除するという対応を取りました。しかし、すでにこの情報は人々の間に広まっており、特に南京での動きは、その後の四五天安門事件へと繋がる国民の政治的な意識や不満を増幅させる一因となったとされています。新聞の一つの記事が、やがて大きな政治的動乱へと繋がる連鎖の一部となった事例として記憶されています。

このように、文匯報は創刊以来、中国の激動の時代と共に歩み、特に政治的に機微な局面において、その紙面が歴史的な役割を果たすことがありました。度重なる停刊と復刊の歴史は、中国における報道機関の置かれた状況を反映していると言えるでしょう。

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