呉晗

呉晗（ご かん）

呉晗は、中華人民共和国の政治家であり、著名な歴史家です。特に明史研究における第一人者として知られています。

生涯

浙江省金華府義烏県に生まれた呉晗は、中学校卒業後、地元の小学校で教鞭を執りました。黄埔軍官学校への入学を志すも、経済的な理由で断念。その後、之江大学を経て中国公学大学部へ進学しました。中国公学在学中に胡適の中国文化研究会に所属し、論文「前漢の経済状況」を執筆。この論文が胡適に認められたことが、彼の学問的なキャリアの転機となりました。清華大学卒業後は、同大学に残り、歴史学（明史）の講師として教鞭を執りました。

抗日戦争中は、清華大学などが昆明に移転して設立された西南連合大学で教授として歴史学を講義しました。国民党の腐敗に反発し、中国民主同盟（民盟）に加入。昆明における有力な活動家として活動する一方で、中国共産党に好意的で、共産党文献の学習会にも参加しました。

中華人民共和国成立後は、清華大学人文科学部長、北京市副市長を歴任。当時、中国では『清史』編纂が計画されていましたが、清史研究の遅れと研究者不足が課題となっていました。そこで呉晗が中心となり、清代の歴史研究の重点化と専門的な研究者育成のための体制づくりが行われました。1957年3月には、民盟同盟員のまま中国共産党に入党。当初、共産党への入党は非公開でしたが、後に公表されました。同年、反右派闘争が起こると、呉晗は共産党側に立ち、民盟幹部として羅隆基ら共産党に批判的な意見を述べた民主党派幹部を強く批判しました。

1961年には、京劇戯曲『海瑞罷官』を発表。1960年から1961年にかけて中国演劇界で行われた歴史劇論争では、歴史学者として歴史劇における歴史的事実の尊重を強く主張しました。

しかし、1965年に姚文元によって『海瑞罷官』が悪徳官僚が農民から没収した土地の農民への返却（退田）と冤罪を被った民衆の救済（平冤獄）をテーマにしていることが、集団化された土地の農民への再配分・人民公社解体、そして反革命分子らの名誉回復を主張する作品であると批判されます（新編歴史劇『海瑞罷官』を評す）。さらに毛沢東が『海瑞罷官』と彭徳懐解任を結びつける談話を発表したことがきっかけとなり、呉晗は北京市副市長を解任され、文化大革命の端緒となりました。文化大革命の本格化により迫害を受け投獄され、獄中で死去（死因は不明ですが、自殺説が有力です）。妻の袁震も同様に獄死し、養女の呉小彦も精神を病み、精神病院で自ら命を絶ちました。

著作

『朱元璋伝』、1949年
『読史箚記』、1955年
『投槍集』、1959年
『灯火集』、1960年
『呉晗全集』全10巻、2009年（北京市副市長としての行政文書と反右派闘争時の言論は収録されていません）
『新中国の人間観』 勁草書房、1965年

参考文献

* 瀬戸宏「呉晗と『海瑞罷官』－『海瑞罷官』の執筆意図」（京都大学人文科学研究所附属現代中国研究センター研究報告『現代中国文化の深層構造』2015年6月発行）

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