文帝 (漢)

文帝（ぶんてい）

文帝は、前漢王朝の第5代皇帝（恵帝の子とされる少帝を除くと第3代）であり、名は恒（こう）です。高祖・劉邦の四男として生まれ、その治世は中国史上における模範的な統治として、後世の歴史家から高く評価されています。

生涯

出生

文帝の生母である薄氏は、戦国時代の魏王室の血を引く女性でした。彼女は西魏王・魏豹の後宮に入り、人相見から将来皇帝を産むと予言されたと伝えられています。魏豹が劉邦に反旗を翻した後、薄氏は劉邦の後宮に入り、文帝を産みました。

代王時代

劉邦が皇帝となると、劉恒は代王に封じられました。幼少だったため、傅寛が丞相として後見役を務めました。劉恒は母の薄氏、叔父の薄昭とともに代国で成長しました。高祖の死後、呂后が実権を握り、高祖の庶子を次々と殺害する中、劉恒は難を逃れました。これは、母の薄氏が劉邦からあまり寵愛を受けていなかったことが幸いしたと考えられています。呂后は劉恒の移封を検討しましたが、匈奴への防衛の重要性を理由に、劉恒はこれを辞退しました。

皇帝即位前後

紀元前180年、呂后の死後、呂氏一族は粛清され、劉恒が皇帝として迎えられることになりました。当初、斉王・劉襄が有力候補でしたが、外戚の専横を避けるため、薄氏を母に持つ劉恒が選ばれました。しかし、代国では元勲たちへの不信感から反対の声も上がりました。幾度かの使者の往復の末、劉恒は皇帝に即位しました。即位後、文帝は元勲たちとの関係に苦慮しましたが、徐々に代王時代からの臣下を登用し、政権を掌握していきました。

文帝の施政

文帝の政治は、民力の休養と農村の活性化を基本としました。大規模工事を抑制し、自らの陵墓も小規模に留めました。また、数度の減税を実施し、田租を免除した年もありました。法制度の改革では、肉刑を廃止しました。母の薄氏には孝養を尽くし、自ら毒味役を務めるなど、その孝行ぶりは後世に語り継がれています。

文帝は、自らの擁立者であり政敵でもあった諸侯王に対して穏便に接し、彼らの地位保全に努めました。周亜夫や袁盎といった実直な臣下を高く評価し、息子である皇太子・劉啓（後の景帝）にも彼らを頼るように遺言しました。

文帝の政策は、目立った業績に欠けるものの、民衆にとっては安定した社会をもたらしました。文帝の治世は、次の景帝の時代と合わせて「文景の治」と称えられ、食糧が倉庫で腐ったり、銭の紐が腐って勘定ができなくなるほどの豊かさを実現しました。

文帝の治世16年目には、「人主延寿」と彫られた玉杯が発見され、記念に改元されました。

妻子

王后 - 代王時代の正室、即位前に死去
王子4人（早世）
皇后：竇猗房（竇猗）
長女：館陶公主 劉嫖 - 堂邑侯陳午の夫人で陳皇后の母
長男：景帝 劉啓
次男：梁孝王 劉武（はじめは代王）
側室：慎夫人 - 邯鄲の人
側室：尹姫
生母不詳の子女
三男：代孝王 劉参
四男：梁懐王 劉揖（劉勝 とも）
皇女：昌平公主 - 周勝之の夫人

登場作品

小説
宮城谷昌光『花の歳月』
テレビドラマ
『劉邦の大風歌 -漢建国記-』（2009年、中国、演：リウ・ムー）
* 『美人心計〜一人の妃と二人の皇帝〜』（2012年、中国、演：サミュル・チャン）

もう一度検索