文政審議会

文政審議会：日本の文化行政を担った諮問機関

文政審議会は、大正13年（1924年）4月15日、勅令第85号「文政審議会官制」に基づき設置された内閣の諮問機関です。内閣総理大臣の監督下に置かれ、国民精神の向上、教育政策、その他文化行政に関する重要事項について調査審議を行いました。昭和10年（1935年）12月に廃止されるまで、日本の文化行政に大きな影響を与えました。

審議会の役割と活動

文政審議会の主な役割は、政府から諮問された事項について調査審議を行い、その結果を答申や建議として提出することでした。具体的には、国民道徳の涵養、教育制度の改革、学校教育の改善、青年教育、高等教育の充実など、幅広い分野を対象に審議が行われました。

総裁は内閣総理大臣、副総裁は文部大臣と、内閣の要人が務めました。委員には、大学教授、官僚、政治家など、各界の専門家や有識者が多数参加し、多角的な視点からの審議が実現しました。

設立から廃止までの間に、文政審議会は14件の諮問を受け、そのうち12件について答申、2件について建議を行いました。これらの諮問・答申は、日本の教育制度や文化政策の変遷において重要な役割を果たしました。

主要な諮問・答申内容

文政審議会が取り扱った諮問・答申は多岐にわたりますが、特に重要なものとして以下の内容が挙げられます。

義務教育年限の延長: 小学校令改正に関する諮問では、小学校の修業年限を8年とすること、尋常小学校と高等小学校の区別を廃止することが提案され、義務教育の充実が図られました。
中等教育の改善: 中等教科書の標準編纂や師範教育の改善・充実に関する諮問では、中等教育の質を高めるための施策が検討されました。
幼稚園令の制定: 幼児教育の充実を目的とした幼稚園令制定に関する諮問では、幼稚園の設置基準や保母の資格などが定められました。
高等小学校制度の改善: 高等小学校入学者の増加に対応するため、実業科目の必修化や教科内容の充実が図られました。
青年訓練: 青年の心身鍛錬と国民性涵養を目的とした青年訓練の導入が検討されました。
大学令の改正: 大学設立の条件緩和や師範教育制度の改正など、高等教育の改善に関する審議も行われました。
中学校教育の改善: 道徳教育の充実、国民精神の涵養、実際生活に有用な知能の育成など、中学校教育の改革が検討されました。
青年学校制度の制定: 実業補習学校と青年訓練所を廃止し、青年学校を新設する計画が審議されました。

これらの諮問・答申は、当時の社会状況や国民のニーズを反映したものであり、日本の教育制度や文化政策の変革に大きな影響を与えました。

委員構成と変遷

文政審議会の委員は、内閣総理大臣、文部大臣をはじめ、各界の著名人が名を連ねていました。委員の構成は、時代や社会情勢の変化に応じて変遷し、様々な専門分野の知見が審議に反映されました。委員の頻繁な交代や辞任は、当時の政治情勢の不安定さを反映しているとも考えられます。

文政審議会の意義

文政審議会は、日本の文化行政における重要な諮問機関として、国民精神の涵養や教育制度の改革に貢献しました。その活動は、日本の近代化と国民国家形成の過程において重要な役割を果たしたと言えるでしょう。ただし、その活動は必ずしも民主的なものではなく、当時の政治状況の影響を受けながら運営されていた点を考慮する必要があります。 その存在と活動は、日本の教育・文化政策の歴史を理解する上で欠かせない要素であり、現代の教育行政を考える上でも貴重な知見を提供しています。

参考文献

山本正身『日本教育史』慶應義塾大学出版会、2014年
阿部彰『文政審議会の研究』風間書房、1975年
『学制百年史』文部省、1972年
『学制に関する諸調査会の審議経過』文部省教育調査部、1937年

もう一度検索