文政町方書上

『文政町方書上』とは

『文政町方書上』は、江戸時代の文政年間に幕府が進めた『御府内風土記』の編纂事業の一環として作られた資料です。この文書は、江戸の各町の由来や現状を町名主たちから提出させた内容を収集・整理したもので、江戸町方書上とも呼ばれています。国立国会図書館に所蔵されている旧幕府の引継書としても知られています。

背景と編纂の経緯

この資料は、江戸時代後期に老中の松平定信の指導の下、武蔵国の地誌を編纂する構想から始まりました。文化7年（1810年）には、昌平坂学問所の地誌調局が新しい武蔵の風土記を制作し始めましたが、同時に江戸の町の詳細を把握するために、特別に『御府内風土記』を編纂することが決定されました。江戸各町の町名主や寺社に対して、詳細な資料の提出が求められ、これらの情報が『町方書上』や『寺社書上』としてまとめられました。

その後、文政12年（1829年）にはこれらの情報が『御府内備考』としてまとめ直されたものの、最終的な『御府内風土記』の編纂は、明治6年（1873年）に発生した皇城火災によって消失してしまいました。ただし、当時編纂されていた町方書上や寺社書上、御府内備考は無事に残ったと言われています。

収録範囲と特徴

『町方書上』は、江戸府内の町奉行が支配する地域と、神田川を含んだ外濠の外側に位置する町々を対象としています。146冊からなるこの資料には、白金、市谷、牛込、渋谷などの地域が含まれており、具体的に町の名称やその周辺の情報が記載されています。

各町は、江戸城を基点にした方角と距離、町の成立、面積、隣接する町の名称、さらには町内の住居数や商業施設についても詳細に記載されています。さらに、地域内の神社や古い跡地に関する情報も含まれおり、町の特性や歴史を知る貴重な資料となっています。

文章の構成

この書上の各項目は幕府からの具体的な指示に基づいてほぼ統一された形式で記載されています。町ごとに次のような内容が取り上げられます：

• - 江戸城からの方角と距離
• - 町の成立に関する情報
• - 各町の広さや隣町の名称
• - 地元で使われる名前や住居のタイプ
• - 施設や古い遺跡の情報

そして最後には、「右之通取調、此段申上候。右之外御箇条々廉々当町ニ無御座候。以上。」という締めくくりの言葉と年月、及び差出人の署名が記されています。

出版状況

『町方書上』の重要性は早くから認識されており、江戸地誌研究においては必須の資料です。1914年に国書刊行会から最初に部分的に公開され、その後も地域ごとに出版が進められました。特に、昭和の時代には多くの地方自治体が関連部分の収録を行い、最近では国立国会図書館が原本をデジタルライブラリーとして公開しました。

今日では、この資料は江戸時代の社会構造や町の歴史を探るために不可欠な情報源となっています。

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