斎藤信夫

斎藤信夫（さいとう のぶお）は、1911年（明治44年）3月3日に千葉県山武郡南郷村（現在の山武市）に生まれ、1987年（昭和62年）9月20日に76歳でその生涯を終えた、日本の童謡作詞家です。

彼は、千葉師範学校（現在の千葉大学教育学部）で学んだ後、小学校教諭として教壇に立つ傍ら、詩作に情熱を注ぎました。教材雑誌への投稿などを通じて独学で腕を磨き、作曲家の海沼實と交流を持つようになります。戦時中は愛国心を鼓舞するような詩も手掛け、そのうちの一編「星月夜」を海沼に送ることもありました。

斎藤の詩作活動において最も特筆すべきは、終戦を迎えた1945年（昭和20年）12月に誕生した童謡「里の秋」です。この曲は、彼が戦時中に作った「星月夜」を基に、海沼實の依頼で改作されたものでした。当初「星月夜」の3番と4番には、戦地の父を励まし、将来兵隊になることを誓うといった、当時の時局を反映した内容が含まれていました。しかし、終戦直後に海外からの引揚者を励ますラジオ番組で放送するために、海沼はこれらの部分を新しい3番へと書き換えるよう斎藤に求めました。

戦意高揚の詩から一転、故郷への思いや平和への願いを込めるという、詩人にとって困難な要求でしたが、斎藤は苦心の末、放送前夜に新たな3番を完成させました。改作に際し、「星月夜」の3番にあった戦地を思わせる「椰子の島」という言葉を残しつつ、帰りを待つ家族の無事を祈るという情感豊かな詞へと昇華させた点は、多くの研究者から高く評価されています。また、1番と2番の繰り返しに呼応するように、新しい3番に「さよならさよなら」という言葉を取り入れたことは、戦争を含む過去との決別を象徴する表現として秀逸だと評されています。

こうして完成した詩は、海沼の提案で「里の秋」と改題され、1945年12月24日にNHKのラジオ番組で初放送されました。当時小学5年生だった川田正子の歌声に乗って全国に届けられたこの曲は、大きな反響を呼び、その後「復員だより」という番組のテーマソングとして長く親しまれ、日本の代表的な童謡の一つとなりました。斎藤自身、この曲が放送1万回を超えたことを報告しています。

斎藤はまた、教師としての強い信念も持っていました。戦前・戦中に皇国史観に基づいた教育を行ってきたことを深く反省し、終戦直後には一度教職を辞しました。その後、再び中学校の教壇に復帰しますが、童謡への情熱は衰えず、研究会を主宰し、月刊の同人誌「花馬車」や幼児童謡研究誌「三輪車」を創刊するなど、後進の育成や童謡文化の普及にも尽力しました。これらの雑誌は、彼の定年や晩年まで続けられました。

生涯を通じて1万篇を超える詩を創作した斎藤信夫は、「里の秋」のほかにも「蛙の笛」「ばあや訪ねて」「夢のお馬車」など、海沼實作曲による多数の作品を残しています。また、山口保治、中田紳一郎、中田喜直といった作曲家とも協働しました。彼の功績は認められ、勲五等双光旭日章を受勲しています。

彼の功績を称え、「里の秋」をはじめとする童謡の歌碑が、出身地の千葉県山武市、千葉市、兵庫県たつの市、作曲家海沼實の故郷である長野県長野市松代町、そして歌手川田正子の母の故郷である千葉県いすみ市など、全国各地に建てられています。斎藤信夫は、日本の子供たちに温かい詩を届け続けた、誠実な童謡詩人として記憶されています。

主な作品：
里の秋
蛙の笛
ばあや訪ねて
夢のお馬車
おひなまつり
にこにこえくぼ
こどもの朝
カニサンオメメ

主な歌碑：
「里の秋」：千葉県山武市（成東城跡公園、南郷小学校）、千葉市（文学の森）、兵庫県たつの市（童謡公園）、長野県長野市松代町（つつみ公園）、千葉県いすみ市（童謡の里）
「蛙の笛」：千葉県いすみ市（童謡の里）、長野県長野市松代町（真田公園、つつみ公園）

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