斎藤博 (外交官)

斎藤博：日米間の懸け橋となった外交官

斎藤博（さいとうひろし、1886年12月24日 - 1939年2月26日）は、大正から昭和初期にかけて活躍した日本の外交官です。新潟県出身で、父も外務省に勤務していた外交官一家に生まれました。東京帝国大学法科大学を卒業後、外務省に入省し、そのキャリアを外交官としてスタートさせました。

外交官としてのキャリア

斎藤は、アメリカやイギリスでの勤務が長く、親英米派として知られていました。ワシントンD.C.への赴任を皮切りに、シアトル領事、ニューヨーク領事を歴任し、パリ講和会議、ワシントン会議、ロンドン海軍軍縮会議などの重要な国際会議にも全権団の一員として参加しました。1929年には外務省情報部長に就任するなど、その才能は高く評価されていました。

1934年には駐オランダ公使に任命されましたが、すぐに駐米大使としてワシントンに転任しました。当時、日米関係は満州事変の影響で悪化の一途をたどっており、斎藤の着任は非常に困難な状況下でのものでした。しかし、斎藤は着任時の記者会見で「君らと一緒にウイスキーを飲みに来たよ」とジョークを交えて挨拶し、場を和ませるなど、その人間性で周囲を魅了しました。また、日中戦争初期のパナイ号事件では、本国の指示を待たずにラジオを通じて平和的解決を訴え、両国関係の改善に尽力しました。

1935年には、アメリカの雑誌に日本の皇室に対する不敬な漫画が掲載された際には、本国の指示に従いアメリカ政府に抗議し、コーデル・ハル国務長官から遺憾の意を引き出しました。

病と死、そしてその遺志

しかし、1938年頃から斎藤の健康状態は悪化し、肺結核の療養のためバージニア州のホットスプリングスで静養生活を送ることになりました。近衛文麿首相から外務大臣への就任を要請されるも、健康上の理由から辞退しました。その後、外務省は斎藤の駐米大使の任を解き、帰国を命じましたが、病状が悪く帰国の途につくことができず、ワシントンで息を引き取りました。

斎藤の死はアメリカでも大きく報道され、ニューヨーク・タイムズ紙などの主要な新聞でも大きく報じられました。ハル国務長官も、日米友好のために尽力した斎藤の死を悼む声明を発表しました。アメリカ政府は、斎藤の遺志を尊重し、巡洋艦アストリアに遺骨を乗せて日本へと送り届けました。日本に到着後、横浜港では21発の礼砲をもって迎えられ、盛大な受領式が行われました。

葬儀は築地本願寺にて外務省葬として執り行われ、多くの外交関係者や日米の儀仗兵が参列しました。斎藤の遺体は多磨墓地に埋葬されました。

家族と親族

斎藤の妻は長與專齋の孫娘である美代子です。美代子の母方の祖父は明治の元勲である後藤象二郎で、義理の母は後藤の四女である延子です。また、美代子の妹である仲子は五・一五事件で暗殺された犬養毅の三男である犬養健に嫁ぎ、斎藤と犬養は義理の兄弟の関係にありました。さらに、犬養健の娘がエッセイスト・タレントの安藤和津であり、その夫は俳優・映画監督の奥田瑛二であるため、安藤家とも縁戚関係にあります。

栄典

斎藤は、その功績を称えられ、以下の栄典を受けています。

1920年（大正9年）9月7日 - 勲五等双光旭日章
1934年（昭和9年）5月15日 - 正四位
1939年（昭和14年） - 勲一等瑞宝章
グラン・クロア・オランジュ・ナッワシウ章（オランダ）


斎藤博は、その卓越した外交手腕と人柄で、日米関係の改善に尽力しました。彼の功績は、今もなお語り継がれています。

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