斎藤昌三 (古書研究家)

斎藤昌三（さいとう しょうぞう）は、明治から昭和にかけて活動した日本の書物研究者、蒐集家であり、特に古書や発禁本、さらには猥褻本の研究で知られ、「書痴（しょち）」と称されました。1887年3月19日に神奈川県高座郡座間村（現在の座間市）で商人の子として生まれ、当初は政三という名を名乗っていましたが、関東大震災を経て昌三に改名しました。

少年期に神奈川県立第三中学校（現在の神奈川県立厚木高等学校）に進みますが、1905年に中途退学し、横浜の生糸商社である原合名会社に入社します。ここでは主に銀行を訪問する業務を担当しており、その中で後の登山家として知られる小島烏水や礒萍水といった人物と出会う機会を得ました。1910年頃に同社を離れてからは、様々な職を転々としました。

文学や書物への関心は深く、1915年には同人誌『樹海』を創刊し、その後幾度かの改題を重ねつつ継続しました。また、秘密裏に『明治文藝側面鈔』を刊行し、当局によって発禁処分とされた小説などを紹介しています。1920年には趣味人である加山道之助と共に趣味誌『おいら』を立ち上げ、さらに三田平凡寺が主宰する趣味人の集まり「我楽他宗（がらくたしゅう）」にも参加するなど、趣味の世界でも交流を広げました。

しかし、1923年の関東大震災により、斎藤は長年かけて収集した多くの資料財産を失うという大きな被害を受けました。この出来事を機に、彼は生活の拠点を茅ヶ崎に移します。震災後の混乱や価値観の変化の中で、三田平凡寺との関係も悪化し、「我楽他宗」からも脱退することとなりました。

震災後の再出発として、1923年9月には『おいら』を終了させ、新たに雑誌『いもづる』を発刊します。この頃、梅原北明との親交を深め、その企画である「変態十二史」のうち二冊の執筆を担当しました。1925年10月には、書物愛好家のための雑誌『愛書趣味』を創刊し、柳田泉や木村毅といった研究者たちと共に明治文学の研究にも力を注ぎ始めました。

彼の出版活動の中でも特に重要な位置を占めるのが、1931年7月に創刊した雑誌『書物展望』です。書物展望社は雑誌発行だけでなく、単行本の刊行事業も手掛け、1932年には斎藤自身が編集した内田魯庵の『紙魚繁盛記』や淡島寒月の『梵雲庵雑話』といった書籍を出版しました。『書物展望』は戦時中に一時中断を余儀なくされますが、戦後に復刊し、1951年まで続きました。この雑誌を通じて、日本の書物文化に関する幅広い情報発信を行いました。

斎藤昌三の研究と著作は多岐にわたります。『近代文芸筆禍史』や『現代筆禍文献大年表』で検閲や発禁の歴史を探求し、『蔵書票の話』や『日本の古蔵票』では蔵書票という書物に関連する文化に光を当てました。また、『江戸好色文学史』のような猥褻本や性風俗に関する研究、さらには『書痴の散歩』、『書淫行状記』、『少雨荘交遊録』といった書物や自身の体験に基づいた随筆も多く発表しました。複数の名義を使い分け、好色本などの編訳も手掛けています。

晩年は茅ヶ崎の地で文化人として穏やかに過ごし、地域の文化振興にも貢献しました。1959年4月には茅ヶ崎市立図書館の名誉館長に就任しています。生涯を書物とともに歩み、稀覯本や筆禍・発禁本の探求、書物文化の普及に尽力したその功績は、日本の書誌学や書物史において高く評価されています。

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