斎藤正治

斎藤正治は、1930年に生まれ、1987年3月に没した日本の評論家です。彼は主に映画と演劇の分野で批評活動を展開しました。

斎藤氏の評論活動において、特に注目すべきは、1970年代に巻き起こった「日活ロマンポルノ裁判」への関与です。この裁判は、当時の日本映画の一角を占めていた日活ロマンポルノ作品の「猥褻性」が問われた画期的なものであり、芸術における表現の自由と社会規範との境界線について、広く議論を喚起しました。

斎藤氏は、この裁判に対し、評論家としての立場から積極的に発言を行いました。彼の著書である『日活ポルノ裁判』（風媒社）や、『権力はワイセツを嫉妬する―日活ポルノ裁判を裁く』（風媒社）といった著作は、その姿勢を明確に示しています。これらの著作は、単に裁判の経過を追うにとどまらず、権力が芸術表現をいかに抑制しようとするのか、そして「猥褻」とは本来何を指すのかといった根源的な問いを投げかけました。

斎藤氏は、日活ロマンポルノが決して単なる「ポルノグラフィ」ではなく、厳しい製作体制の中で生み出された独自の表現形式であり、作家性を持った監督たちによって芸術的な挑戦がなされていた点を評価しました。神代辰巳や藤田敏八といった、このジャンルを代表する監督たちの作品に光を当て、その批評的な価値を論じました。彼は、権力が「猥褻」を理由に表現を規制することへの強い警鐘を鳴らし、それは結局のところ、自由な思想や表現そのものを抑圧することにつながるという認識を持っていました。

裁判を巡る彼の活動は、表現規制の動きに対して異議を唱える論陣を張るものであり、当時の映画界や言論界に大きな影響を与えました。彼の著作名は、「権力はワイセツを嫉妬する」という挑発的な言葉に象徴されるように、国家や社会が性的な表現に対して過剰に反応し、それを抑圧しようとする背景には、自由なエネルギーに対する恐れや嫉妬があるのではないか、という深い洞察を示唆しています。

斎藤氏の活動は、同時代の批評家や監督たちとの交流の中で展開されました。関連人物として挙げられる松田政男、山根貞男、上野昻志といった映画評論家や批評家たちは、当時の日本の映画批評を牽引した面々です。また、大島渚は、社会的なタブーに挑む作品を発表し続けた映画監督であり、斎藤氏の思想と共鳴する部分があったと考えられます。日活、そして日活ロマンポルノという映画会社とジャンルは、斎藤氏の批評の主要な対象であり、彼の評論活動抜きには語れないものでした。

斎藤正治は、日活ポルノ裁判という具体的な出来事を通して、表現の自由の価値を強く訴えかけた評論家でした。彼の著作と活動は、今日の私たちの社会においても、表現と規制の問題を考える上で重要な示唆を与え続けています。彼の生涯は比較的短いものでしたが、その残した批評的足跡は、日本の言論史、特に映画批評史において、無視できない存在感を放っています。

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