斎藤隆介

斎藤隆介（さいとう りゅうすけ、本名：隆勝）は、1917年1月25日に東京都で生まれ、1985年10月30日に生涯を終えた、日本の重要な児童文学作家です。

その文学への歩みは、山本有三に傾倒し、明治大学専門部文科（文芸科）に入学したことから始まります。在学中にはロシアの作家ゴーリキーの作品から強い影響を受けました。大学卒業後、斎藤は北海道新聞、次いで秋田魁新報の記者として活動しますが、その傍らで創作活動にも力を注ぎ始めます。

斎藤隆介の作品世界は、秋田地方の豊かな方言や、擬音語・擬態語（オノマトペ）を巧みに織り交ぜた、まるで古くから伝わる民話のような語り口が特徴です。しかし、これらの作品のほとんどは、彼自身の自由な発想から生まれた創作童話でした。当初、これらの作品は子供たちのためというよりは、地域の教員や子供たちの保護者を対象として書かれていましたが、後に画家・滝平二郎との出会いが大きな転機となります。

滝平二郎の独特なタッチの版画による挿絵が加わり、絵本として出版された作品群は、次第に多くの読者の心をつかみ、斎藤隆介を広く知られる児童文学作家へと押し上げました。斎藤と滝平は、その後も長きにわたり共同で数々の名作を生み出すことになります。

斎藤作品の根底には、単純ながらも力強い展開があり、生と死の狭間で葛藤する主人公たちの姿を通して、人間が本源的に持つ情念や情愛、そして尽きることのない生へのエネルギーがほとばしっています。一方で、自己犠牲や献身といった、やや教訓めいた主題や表現が含まれることから、発表当時は賛否両論を巻き起こすこともありました。

しかし、戦後の児童文学史において、斎藤隆介が童話および絵本の分野に新しい地平を切り開いた功績は揺るぎないものです。特に、彼の作品は「民話絵本」と呼ばれるジャンルのブームを巻き起こし、『モチモチの木』や『花さき山』といった代表作は、小学校の国語教科書にも採用され、多くの世代に読み継がれています。その作風は、古田足日、神宮輝夫、今江祥智、藤田のぼるなど、後続の児童文学作家たちにも強い影響を与えました。

主な作品には、『八郎』（1967年）、自身が佐倉惣五郎の逸話を元にしたと語った『ベロ出しチョンマ』（1967年、第17回小学館文学賞）、『花さき山』（1969年）、『ゆき』（1969年、1981年に劇場アニメ化）、『ちょうちん屋のままッ子』（1970年、1971年第18回産経児童出版文化賞）、そして児童文学を代表する絵本の一つとして名高い『モチモチの木』（1971年）などがあります。また、『天の赤馬』（1977年、1978年第18回日本児童文学者協会賞）、没後に出版された『ソメコとオニ』（1987年、第10回絵本にっぽん賞）なども高く評価されています。

斎藤隆介の作品は、力強い言葉と絵によって、人間の根源的な感情や生命の輝きを描き出し、今なお多くの読者に感動を与え続けています。その功績は、全12巻に及ぶ「斎藤隆介全集」にもまとめられています。

もう一度検索