斗満虐殺事件

斗満虐殺事件：朝鮮戦争における悲劇

斗満虐殺事件は、朝鮮戦争中の1950年7月16日、大田の戦いにおいて発生した悲劇的な戦争犯罪です。この事件では、重傷を負った非武装のアメリカ陸軍兵士30名と、同じく非武装の従軍聖職者1名が、北朝鮮軍によって無残にも殺害されました。

事件の背景

朝鮮戦争の勃発後、国連軍は韓国の崩壊を防ぐために派遣されました。しかし、米軍は第二次世界大戦終結後の軍縮により、装備の老朽化や人員不足に悩まされていました。そのような状況の中、最初に朝鮮半島に派遣されたのが、第24歩兵師団でした。

第24師団の苦戦

第24師団は、烏山の戦いをはじめとする連戦で北朝鮮軍に敗北を重ね、後退を余儀なくされました。その後、第24師団は錦江を渡り、大田周辺に防御線を構築するよう命じられました。大田はソウルと釜山を結ぶ交通の要衝であり、米軍にとって戦略的に重要な場所でした。

虐殺事件発生

7月16日、北朝鮮軍は第19連隊の陣地を攻撃し、補給線を遮断しました。負傷兵の搬送が困難となったため、重傷を負った30名のアメリカ兵は山頂に取り残されました。彼らと共に残ったのは、衛生兵のリントン・J・バトリー大尉と、従軍司祭のヘルマン・G・フェルホルター大尉でした。

北朝鮮軍の斥候が彼らに近づいてきた際、フェルホルター大尉はバトリー大尉に逃げるよう促しました。バトリー大尉は逃走に成功したものの、フェルホルター大尉は負傷兵のために祈りを捧げていました。その時、北朝鮮兵がフェルホルター大尉を射殺し、さらに30名の負傷兵も殺害しました。

事件の影響

この虐殺事件は、米軍が北朝鮮軍の戦争犯罪を調査するきっかけとなりました。委員会が設立され、調査の結果、北朝鮮軍はジュネーブ条約に違反したと結論付けられました。この事件は、北朝鮮軍が捕虜の取り扱いに関する厳格なガイドラインを策定する契機ともなりました。

虐殺の背景に関する考察

北朝鮮軍は、戦争初期には捕虜を虐待するよう直接命じていなかったことが、その後の研究で判明しました。虐殺事件は、統制の行き届かない小規模な部隊による個人的な報復や、絶望的な状況下での行動が原因であると考えられています。軍事史学者のT・R・フェーレンバッハは、これらの事件を実行した北朝鮮の部隊は、旧日本軍による長年の圧政で捕虜の拷問や処刑に慣れていたのではないかと分析しています。

フェルホルター大尉の勇気

殺害されたフェルホルター大尉は、負傷兵と共に残った勇気を称えられ、殊勲十字章を授与されました。彼はこの戦争で勇気を称えられて勲章を授与された最初の従軍司祭となりました。

アメリカの反応

この事件は、米軍が北朝鮮軍が行ったと非難した初期の虐殺事件の一つであり、後に上院政府活動委員会は、朝鮮戦争での戦争犯罪の疑いを調査しました。バトリー大尉は委員会に証人として出廷し、北朝鮮軍によるジュネーブ条約の違反を証言しました。

北朝鮮の反応

1950年7月28日、北朝鮮軍の最高司令官である金策と、総司令部の指揮官の1人である崔庸健は、捕虜の殺害を厳禁とする命令を出しました。その後、北朝鮮軍は捕虜の取り扱いに関するより厳格な命令を出しました。

結論

斗満虐殺事件は、朝鮮戦争における悲劇的な出来事であり、戦争の残酷さを物語っています。この事件は、捕虜や非戦闘員に対する人道的な取り扱いを改めて考える契機となり、国際法における戦争犯罪の定義を明確化する上で重要な役割を果たしました。

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