斬る (1968年の映画)

『斬る』：岡本喜八監督が描く、対照的な二人の男の生き様

1968年、東宝より公開された岡本喜八監督の時代劇映画『斬る』は、山本周五郎の小説「砦山の十七日」を下敷きにした、重厚で力強い作品です。第23回毎日映画コンクール美術賞を受賞しており、その映像美も高く評価されています。

本作は、天保四年の上州を舞台に、対照的な二人の男の物語を描いています。一人は、かつて侍であったが今はその身分を捨て、自由な生活を送る弥源太（源太）。もう一人は、百姓の身分から抜け出し、侍を志す半次（田畑半次郎）です。この二人の異なる境遇と生き様を通して、時代劇特有の緊迫感と人間ドラマが展開していきます。

源太は、かつての武士としての誇りと、自由を手に入れた安らぎの狭間で揺れ動き、半次は、厳しい現実と理想の狭間で葛藤します。彼らの周囲には、個性豊かな登場人物たちが集います。それぞれの思惑や野望、そして人間関係が複雑に絡み合い、物語に深みを与えています。

岡本喜八監督独特の演出は、本作でも存分に見られます。緊迫感あふれる戦闘シーン、緻密に計算されたカメラワーク、そして時代考証に基づいた細やかな美術設定など、多くの要素が一つになって、観る者を圧倒する世界観を作り上げています。

特に印象的なのは、登場人物たちの心理描写です。彼らの内面的な葛藤や、時代背景の中で生きる苦悩が、繊細かつ力強く表現されています。セリフだけでなく、表情や仕草からも、それぞれの心情が伝わってきます。

豪華なキャスト陣も本作の魅力の一つです。仲代達矢が源太を、高橋悦史が半次を演じ、その演技は時代劇映画史に刻まれる名演と言えるでしょう。その他にも、星由里子、岸田森、久保明など、実力派俳優たちが脇を固め、作品全体をさらに豊かに彩っています。地井武男はこの作品で映画初出演を果たしました。

『斬る』は、単なる時代劇を超えた、人間の生き様を深く見つめた作品です。時代劇映画ファンはもちろん、そうでない人にも強くお勧めできる、日本の映画史における重要な作品と言えるでしょう。

スタッフ

監督：岡本喜八
脚本：岡本喜八、村尾昭
製作：田中友幸
原案：山本周五郎（「砦山の十七日」）
撮影：西垣六郎
美術：阿久根巖
音楽：佐藤勝
編集：黒岩義民
擬斗：久世龍
チーフ助監督：渡辺邦彦

主な配役

仲代達矢：兵頭弥源太（源太）
高橋悦史：田畑半次郎（半次）
星由里子：千乃
岸田森：荒尾十郎太
久保明：竹井紋之助
中村敦夫：笈川哲太郎
中丸忠雄：庄田孫兵衛
神山繁：鮎沢多宮
東野英治郎：森内兵庫
田村奈巳：よう（宿場女郎）
天本英世：島田源太夫
土屋嘉男：松尾新六
橋本功：藤井功之助
浜田晃：西村伝蔵
地井武男：吉田弥平次
そして多くの俳優が出演している。

『斬る』は、時代劇映画の傑作として、今もなお多くの観客を魅了し続けています。

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