斯波高経

斯波高経：南北朝時代の風雲児、足利一門の栄光と悲劇

斯波高経は、南北朝時代を駆け抜けた武将にして守護大名です。越前、若狭、越中守護を歴任し、足利氏の有力一門である斯波氏（足利尾張守家）の4代当主として名を馳せました。興味深いことに、高経自身は存命中に「斯波」を名乗ったり、そう呼ばれたりした記録はなく、終生「足利」を称していました。そのため現在でも「足利高経」と呼ばれることが多い人物です。

波乱に満ちた生涯

高経は、元弘3年（1333年）の足利尊氏の挙兵に参戦し、鎌倉幕府滅亡に貢献しました。建武政権下では越前守護に任じられましたが、尊氏が建武政権に反旗を翻すと、それに従い北朝方の武将として活躍します。北陸地方の司令官として南朝方の有力武将、新田義貞と幾度も激突し、延元3年（1338年）には藤島の戦いで義貞を討ち取るという大功を挙げました。

その後も、観応の擾乱では足利尊氏と足利直義の間で何度も陣営を変え、そのたびに激しい戦いを繰り広げます。尊氏の死後、一時的に室町幕府の最高権力を握るものの、佐々木道誉らの陰謀によって失脚し、越前杣山城で病死しました。

名門斯波氏と足利家との関係

斯波氏は足利氏の嫡流から分かれた名門で、当初から「足利」を名乗り、代々尾張守を称していました。「足利家の庶家」ではなく「足利家の別家」として高い家格を誇り、高経も史料では「足利尾張守高経」と記されています。高経の「高」の字は、尊氏と同じく北条高時からの偏諱です。室町幕府成立後、高経の四男・義将が管領となり、高経は義将の後見人として幕政にも深く関与しました。「斯波氏」を本格的に名乗るようになったのは、義将以降のことです。

鎌倉御家人から幕府の実権者へ

嘉元3年（1305年）に誕生した高経は、父・宗氏の早世により若くして家督を継いだ可能性があります。元弘3年、尊氏に従って鎌倉幕府打倒に参加し、建武の新政下では越前守護に任ぜられます。建武元年には紀伊飯盛山の反乱を鎮圧するなど、早くからその能力を発揮しました。

尊氏の建武政権離反後も、高経は尊氏に付き従い、湊川の戦いにも参陣。その後は北陸で南朝方と激しく戦い、新田義貞父子を破り、義貞自身も討ち取るなど、数々の武功を挙げました。

観応の擾乱では、尊氏と直義の間で何度も離反と帰順を繰り返すなど、複雑な政治状況の中で生き抜きました。尊氏の死後、義詮の補佐役として幕府の実権を掌握し、四男の義将を管領に任命するなど、斯波氏による幕府支配を確立しました。しかし、強権的な政治は反発を招き、佐々木道誉らの策謀によって失脚、最期は越前杣山城で迎えました。

高経を巡る人物像と逸話

高経は足利一門の中でも最高の家格を誇り、将軍家と肩を並べるほどでした。そのため、管領就任を当初は拒否したという逸話も残っています。また、『太平記』には、新田義貞を討ち取った際に手に入れた名刀を、尊氏の要求を拒否して焼いてしまったというエピソードも記されています。

佐々木道誉との確執も有名で、道誉が五条橋架橋工事を遅延させた際、高経が自ら完成させ、道誉の面子を潰したという逸話や、花見の席で道誉に出し抜かれたという話などが残されています。

高経の最期は、幕府からの追討を逃れることなく、杣山城で迎えたとされます。その生涯は、まさに波乱に満ちたものでした。

高経のその後

高経の死後、義将は赦免され幕府に復帰。斯波氏はその後も室町幕府において三管領の筆頭として重要な役割を果たし続けました。高経の功績と苦悩は、南北朝時代から室町時代への転換期を象徴する存在として、歴史に刻まれています。

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