新アッシリア帝国における国家通信

新アッシリア帝国の国家通信システム：古代の情報ネットワーク

新アッシリア帝国（紀元前911年 - 紀元前609年）は、鉄器時代にメソポタミアを支配した大帝国でした。その広大な領域を効率的に統治するため、革新的な国家通信システムを構築しました。このシステムは、帝国の維持と拡大に不可欠な役割を果たし、後の帝国にも影響を与えました。

駅伝制（kalliu）の導入

新アッシリア帝国の通信システムの中核をなしたのは、駅伝制（アッシリア語でkalliu）と呼ばれるリレー方式でした。このシステムでは、騎手が一定区間をラバで走り、次の駅で待機している別の騎手にメッセージを引き継ぎました。これにより、一人の使者が全行程を移動するよりもはるかに迅速な情報伝達が可能になりました。

ラバの活用

長距離のメッセージ伝達には、主にラバが用いられました。ラバは、雄ロバと雌馬の交配種であり、馬の体力とロバの耐久性を兼ね備えています。新アッシリア帝国は、ラバを通信手段として利用した最初の文明の一つでした。ラバは、その優れた持久力と低い維持コストから、長距離移動に最適な動物として重宝されました。

整備された道路網

新アッシリア帝国は、帝国内の各地を結ぶ広大な道路網を整備しました。これらの道路は、「王の道」（hūl šarriまたはharran šarri）と呼ばれ、軍事遠征にも利用されました。道路沿いには一定間隔で駅（bēt mardēti）が設けられ、騎手やラバの交代、休憩、物資の補給が行われました。駅間の距離は約35〜40キロメートルで、騎手は常に新鮮なラバに乗り換えることができました。

通信の権限と方法

国家通信システムを利用できるのは、アッシリアの「偉大な者」と呼ばれる高官たちに限られていました。彼らは、メッセージに刻印するためのアッシリア王室の印章を持っており、その印章が通信の正当性を示すものでした。メッセージは、粘土板に刻まれ、封筒状の粘土で覆って封印されました。宛先などの情報は封筒に記載され、改ざんを防ぐための工夫が凝らされていました。

通信速度と影響

新アッシリア帝国の通信システムは、驚くべき速度で情報伝達を可能にしました。例えば、帝国の西の国境地帯から首都ニネヴェまでのメッセージは、5日以内に伝達されました。この速度は、電信が導入されるまで中東で最速でした。迅速な情報伝達は、帝国の統治と統一に大きく貢献しました。カレン・ラドナーは、アッシリアを「コミュニケーションの帝国」と呼び、国家通信システムが「帝国運営のための標準的な技術」になったと評価しています。

後世への影響

新アッシリア帝国が開発した通信システムは、後の帝国にも影響を与えました。アケメネス朝ペルシア帝国は、アッシリアの通信ネットワークを継承し、さらに拡大しました。また、このシステムは、19世紀のアメリカ西部で使われたポニー・エクスプレスの原型とも言えます。信頼できる使者が全距離を移動する代わりに、リレー形式でメッセージを伝達するという考え方は、今日の郵便制度の基礎となっています。

新アッシリア帝国の国家通信システムは、古代世界における情報伝達の革新的な進歩でした。その効率性と組織力は、帝国の維持と拡大に大きく貢献し、後世の通信システムにも影響を与えました。

もう一度検索