新アッシリア帝国

新アッシリア帝国（紀元前911年～紀元前609年）

新アッシリア帝国は、鉄器時代に上メソポタミアを中心に隆盛を極めたアッシリアを指す言葉です。その支配領域は古代近東、地中海東岸、小アジア、コーカサス、アラビア半島、北アフリカの一部にまで及びました。アッシリア人は、軍事、行政、文化など、帝国統治の基本的な技術を完成させ、その多くが後の帝国に模倣されました。特に、鉄製の武器で武装した高度な軍隊と、効果的な軍事技術を用いたことは、歴史に名を刻んでいます。

概要

新アッシリア帝国は、多様な民族と部族を統合し、征服した人々を帝国内に組み込むことで勢力を拡大しました。紀元前8世紀のティグラト・ピレセル3世の治世下で最盛期を迎え、広大な版図を誇りました。アッシリアは、バビロニア、エラム、ペルシア、ウラルトゥといった強国を次々と征服し、その勢力は古代世界を席巻しました。

帝国の主要言語はアッカド語でしたが、紀元前8世紀半ば以降、アラム語も公用・行政言語として採用され、次第に重要性を増していきました。これは、拡大する帝国領土における文化の多様性を反映したものでした。

しかし、被征服民への過酷な抑圧に対する反感と、紀元前631年のアッシュルバニパルの死後に続いた内紛により、帝国は徐々に衰退。紀元前612年には、メディア、新バビロニア、スキタイ、キンメリアなどの連合軍によって首都ニネヴェが陥落し、紀元前609年には、アッシリアは独立国家としての地位を失いました。

名称

アッシリア帝国の名称は、アッシリアの楔形文字で「mat Aššur KI」と表記され、「アッシュル神の都市の国」を意味します。

背景

アッシリアは、元々紀元前25～24世紀に発展したアッカド人の王国でした。サルゴン王によるアッカド帝国の成立後、アッシリアはアッカドに服属しましたが、アッカド帝国の崩壊後、紀元前21世紀中頃にアッシュル市が独立勢力となり、アッシリアと呼ばれるようになりました。

初期の青銅器時代、アッシリアはメソポタミア北部の国として、小アジアのヒッタイトやフルリ、バビロニアなどと覇権を争いましたが、紀元前18世紀初頭にはアムル人のシャムシ・アダド1世の支配を受けました。紀元前17世紀と紀元前15世紀には、それぞれバビロニアとミタンニの支配下に入りました。

中アッシリア帝国

アッシュル・ウバリト1世の登場は、アッシリアを強国へと押し上げる転機となりました。彼の治世下で、アッシリアの支配領域は拡大し、地中海沿岸からペルシア湾へと至る交易ルートを確保しました。しかし、紀元前2千年紀末には、アラム人が勢力を拡大し、アッシリアの領土の多くを奪いました。

新アッシリア帝国の歴史

アダド・ニラリ2世とアッシュル・ナツィルパル2世（紀元前911年～紀元前859年）

アダド・ニラリ2世の軍事遠征を機に、アッシリアは再び強国となり、エジプト、エラム、ウラルトゥなどを征服するまでに至りました。アダド・ニラリ2世とその successors は、組織化された軍隊を率いて各地に遠征し、アラム人とフルリ人を駆逐しました。また、バビロニアを攻撃して領土を拡大しました。

アッシュル・ナツィルパル2世は、帝国の拡大政策を推し進め、失われた領土を回復しました。彼は現代のイラン地域にも遠征し、ルルビとグティの反乱を鎮圧しました。また、首都をアッシュルからカルフ（ニムルド）に遷し、大規模な建設事業を行いました。アッシュル・ナツィルパル2世は、被征服民の大量追放政策を導入しました。

シャルマネセル3世からアダド・ニラリ3世まで（紀元前859年～紀元前783年）

アッシュル・ナツィルパルの息子、シャルマネセル3世は、35年にわたり統治し、各地への遠征を繰り返しました。彼はバビロンを占領し、ウラルトゥと戦い、アラム連合と対峙しました。シャルマネセル3世はカルケミシュを奪い、ダマスカスを包囲し、イスラエルやフェニキアの都市から貢ぎ物を受け取りました。

シャルマネセル3世の晩年は、息子による反乱に悩まされましたが、最終的に鎮圧されました。彼の死後、シャムシ・アダド5世が王位を継ぎましたが、内戦と周辺諸国の離反により、領土拡大は停滞しました。シャムシ・アダド5世の子、アダド・ニラリ3世は、レバント地方やイランに侵攻し、各地を従わせました。

停滞期（紀元前783年～紀元前745年）

アダド・ニラリ3世の死後、新アッシリア帝国は停滞期に入りました。シャルマネセル4世はほとんど権力を行使できず、アッシュル・ダン3世は反乱に悩まされました。アッシュル・ニラリ5世の治世も不安定な状態が続き、最終的にティグラト・ピレセル3世によって王座から引きずり下ろされました。

ティグラト・ピレセル3世（紀元前744年～紀元前727年）

ティグラト・ピレセル3世は、アッシリアの政治を全面的に改革し、効率性と安定性を劇的に改善しました。彼は征服した属州を官僚制度の下で組織し、軍隊を専門的な常備軍に改編しました。その結果、アッシリアは再び勢力を拡大し、バビロニア、ウラルトゥ、シリアなどを征服しました。ティグラト・ピレセル3世は、イスラエルにも侵攻し、貢納を課しました。紀元前729年にはバビロン王となり、バビロニアを支配しました。

サルゴン王朝（紀元前721年～紀元前609年）

シャルマネセル5世の死後、サルゴン2世が王位を継ぎ、サマリアを占領して北イスラエル王国を滅ぼしました。彼はエラムやバビロンと戦い、ウラルトゥを破り、メディア、ペルシアなどを再征服しました。サルゴン2世は、新たな首都ドゥル・シャルキンを建設しました。

センナケリブは、サルゴンの後を継ぎ、首都をニネヴェに移しました。彼はキリキアの反乱を鎮圧し、ユダ王国に侵攻しましたが、エルサレムの占領には失敗しました。バビロンでは、マルドゥク・アプラ・イディナが反乱を起こしましたが、センナケリブはこれを鎮圧し、バビロンを破壊しました。

エサルハドンは、センナケリブの後を継ぎ、バビロンを再建しました。彼はスキタイ、キンメリア、メディアを破り、フェニキアを征服し、エジプトにも侵攻してこれを征服しました。アッシリアの領土は、この頃最大に達したと考えられています。

アッシュルバニパルは、エサルハドンの後を継ぎ、エジプトへの遠征を続けました。彼はバビロンで反乱を起こした兄シャマシュ・シュム・ウキンを破り、エラムを攻撃して首都スサを略奪しました。アッシュルバニパルの治世下で、アッシリアは絶頂期を迎えましたが、同時に疲弊も深刻化しました。

アッシリアの滅亡

アッシュルバニパルの死後、帝国内で内戦が発生し、アッシリアは急速に崩壊し始めました。ナボポラッサル率いるバビロニアが反乱を起こし、メディアもアッシリアから独立しました。紀元前612年、メディア・バビロニア連合軍によって首都ニネヴェが陥落し、アッシリア帝国は滅亡しました。

滅亡後のアッシリア

アッシリア帝国は滅亡しましたが、その文化は後継の諸帝国に影響を与え続けました。アッシリアの地は、メディア、アケメネス朝ペルシア、セレウコス朝、パルティア、ローマなどの支配を受けましたが、アッシリア人のアイデンティティは存続し、キリスト教の普及とともに、シリア・キリスト教文化の中心地となりました。

環境的要因

近年、気候変動がアッシリア帝国の滅亡に影響を与えた可能性が指摘されています。干ばつと人口増加が、政治経済の不安定さを招き、帝国の崩壊を加速させたと考えられています。

言語

新アッシリア帝国の初期にはアッカド語が主要言語でしたが、領土拡大に伴いアラム語が公用・行政言語として採用され、次第に重要性を増していきました。アラム語は帝国の共通語となり、アッシリアの文化や社会に大きな影響を与えました。

行政

アッシリア帝国は、建国の諸州と属国から構成され、それぞれの地域は州知事によって統治されました。属州は、アッシリアに貢ぎ物を納め、軍隊を供給する義務を負っていました。アッシリア人は、被征服民を強制移住させる政策を実施し、帝国内の人口構成を変化させました。

軍隊

アッシリア帝国は、「史上最初の軍事国家」と称されるほど、軍事力を重視していました。アッシリア軍は、戦車、騎兵、破城槌などの兵器を駆使し、高度な戦術を採用しました。

社会

新アッシリア帝国は、領土拡張主義に基づく好戦的な社会でしたが、同時に多様な民族と文化が共存する多民族帝国でもありました。アッシリア人は、被征服民を同化させる政策を推進し、共通の言語と文化を形成することで、帝国の一体性を高めようとしました。

文化

新アッシリア時代には、メソポタミア文学の最高傑作が数多く生まれました。ニネヴェのアッシュルバニパルの図書館から出土した粘土板には、「ギルガメシュ叙事詩」や「エヌマ・エリシュ」などが記録されています。また、新アッシリアの楔形文字は、楔形文字の改良の最終段階に達し、現代の楔形文字一覧の基礎となっています。

君主一覧

(省略)

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