ポニー・エクスプレス

ポニー・エクスプレスとは

ポニー・エクスプレスは、1860年4月から1861年10月まで、ミズーリ州セントジョセフとカリフォルニア州サクラメント間を結んだ郵便速達サービスです。グレートプレーンズ、ロッキー山脈、シエラネバダ山脈を越える約3,000kmの道のりを、馬に乗った騎手がリレー形式で手紙を運びました。当時、大陸横断電信が開通するまで、西部における最も重要な東西通信手段であり、南北戦争直前のカリフォルニア州を北部と結びつける上で重要な役割を果たしました。

設立と背景

ポニー・エクスプレスは、ウィリアム・H・ラッセル、アレクサンダー・メジャーズ、ウィリアム・B・ワッデルによって設立されました。彼らは、従来の駅馬車よりも短時間で郵便を配達する方法を模索し、馬を使った速達サービスのアイデアを考案しました。当時、セントジョセフからサクラメントまでの郵便配達には25日以上かかっていましたが、ポニー・エクスプレスはこれを10日間に短縮することを目標としました。

この大胆な計画は、多くの人々に不可能だと考えられていました。しかし、創設者たちは、騎手、馬、駅などの必要な資源をわずか2ヶ月で組織し、実現にこぎつけました。彼らは、120人の騎手、184の駅、400頭の馬、そして数百人の人員を雇用し、この壮大な事業を開始しました。

創設者の一人であるアレクサンダー・メジャーズは、信仰心が厚く、騎手たちに聖書を渡し、神を冒涜する言葉を使わない、酒を飲まない、賭博をしない、動物を虐待しないといった厳しい誓いを立てさせました。

運営方法

ポニー・エクスプレスの運営は、10マイル（約16km）ごとに設置された駅を拠点としていました。各駅では、騎手が新しい馬に乗り換え、郵便物を収めた「モチラ」と呼ばれる革製の郵袋を次の騎手に引き継ぎました。モチラは鞍の上に固定され、騎手の体重で押さえつけられていました。中には、手紙の束の他に、水筒、聖書、駅長に乗り換えを知らせる角笛、リボルバー拳銃などが入れられていました。

騎手は1日に約120〜160kmを走り、必要に応じて連続で2行程を走ることもありました。騎手は125ポンド（約57kg）以下の体重制限があり、時速16〜24kmで馬を走らせました。緊急時には、時速40kmで走ることもありました。

経路

ポニー・エクスプレスの経路は、ミズーリ州セントジョセフから始まり、カンザス州、ネブラスカ州、ワイオミング州、ユタ州、ネバダ州を経由して、カリフォルニア州サクラメントに至る全長約3,000kmの道でした。経路の途中には、オレゴントレイルやカリフォルニアトレイル、モルモントレイルなどが含まれていました。

各地点には駅が設置され、騎手は馬を乗り換えながら、昼夜を問わず走り続けました。経路はいくつかの区間に分けられ、各区間には「スウィング駅」と「ホーム駅」が設けられました。スウィング駅では馬を乗り換え、ホーム駅では騎手が休息を取りました。

最初の配達

1860年4月3日、最初の西行きポニー・エクスプレスがセントジョセフを出発し、4月14日にサンフランシスコに到着しました。この最初の配達で、ニューヨークとワシントンD.C.から運ばれた郵便物は、途中で乗り継ぎのミスがあったにもかかわらず、特別に運行された列車によってハンニバルまで運ばれました。その後、セントジョセフでは市長やポニー・エクスプレスの創設者たちがスピーチを行い、郵袋が最初の騎手に託されました。

最初の西行き騎手が誰だったかについては諸説ありますが、ジョンソン・ウィリアム・リチャードソンかジョニー・フライのどちらかであると考えられています。彼らは郵袋を抱え、ミズーリ川を渡り、カンザス州エルウッドへ向かいました。

一方、最初の東行きポニー・エクスプレスは1860年4月3日にサンフランシスコを出発し、10日ほどでセントジョセフに到着しました。この最初の配達で残っている手紙はわずか2通です。

料金と郵便物

ポニー・エクスプレスの郵便料金は非常に高額で、当初は半オンス（約14g）あたり5ドルでした。これは当時の一般的な人々の給料からすると法外な値段であり、利用できるのは一部の人々だけでした。後に料金は半オンスあたり1ドルに値下げされましたが、それでも高額でした。このため、ポニー・エクスプレスで配達された郵便物は非常に少なく、現存するものは貴重なコレクションとなっています。

最速記録と攻撃

1860年の大統領選挙の際、ポニー・エクスプレスのオーナーであるウィリアム・ラッセルは、選挙結果を速く伝えることでポニー・エクスプレスの宣伝に利用しました。この結果、リンカーン当選のニュースは、東海岸の新聞に遅れることわずか7日17時間でカリフォルニア州の新聞に伝えられました。

しかし、ポニー・エクスプレスはパイユート戦争による襲撃にも遭いました。1860年5月には、パイユート族が駅を襲撃し、従業員を殺害したり、馬を盗んだりしました。このため、配達は一時中断を余儀なくされました。この短期間の戦争により、ポニー・エクスプレスは多大な損害を被りました。

騎手たち

ポニー・エクスプレスの騎手は、若く、体力があり、勇敢な若者たちが務めていました。当時の求人広告には、「若く、痩せこけた針金のような男」という条件が書かれていました。騎手たちは、危険な環境の中、日夜馬を駆り、郵便物を配達しました。

有名な騎手としては、ウィリアム・コディ（バッファロー・ビル）やロバート・ハスラム（ポニー・ボブ）などがいます。バッファロー・ビルは、21時間40分で515kmを走り、21頭の馬を乗り継いだという記録を持っています。ポニー・ボブは、インディアンの襲撃で負傷しながらも、190kmの道のりを8時間20分で走り抜いたという記録を持っています。

終焉と遺産

ポニー・エクスプレスは、大陸横断電信が開通したことにより、その役目を終えました。1861年10月26日、ポニー・エクスプレスは閉鎖を発表しました。しかし、その短い歴史は、アメリカ西部の伝説として語り継がれています。

ウェルズ・ファーゴは、ポニー・エクスプレスのロゴを長年使用し、また、アメリカ合衆国郵便公社も登録商標として「ポニー・エクスプレス」を使用しています。ポニー・エクスプレスの経路は、国立歴史の道に登録され、その史跡が今も残されています。

ポニー・エクスプレスは、数々の映画やテレビドラマの題材にもなり、大衆文化の中でも人気を保っています。その勇敢な騎手たちの活躍は、アメリカ開拓時代の象徴として語り継がれています。

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