新・八戸市民の歌 〜新しい風〜

新・八戸市民の歌 〜新しい風〜

八戸市のシンボルの一つとして、市民歌は市の歩みと共に形を変えてきた。現在、市民に歌い継がれているのは、1999年（平成11年）に市制70周年を記念して制定された3代目の市民歌、「新・八戸市民の歌 〜新しい風〜」である。この歌は、地元にゆかりの深い人物によって生み出された。

八戸市においては、これまでに二つの市民歌が存在した歴史がある。最初の市民歌は、1929年（昭和4年）の市制施行から間もない1934年（昭和9年）に制定された。この初代市民歌は、当時の市長であった神田重雄が自ら詞を手がけたことで知られる。その後、八戸市が1961年（昭和36年）に新産業都市の指定を受けたことを記念し、1964年（昭和39年）には2代目の市民歌が誕生した。この歌は、法師浜桜白が作詞し、日本を代表する作曲家、古賀政男がメロディーをつけた。

そして、市制70周年という節目の年を迎えた1999年、八戸市は未来へ繋がる新たな市民歌の制定を決めた。新しい市民歌に込められた願いは、「すべての市民が口ずさむことができ、世代を超えて長く愛される歌」となることであった。3代目市民歌の制作にあたり、作詞および作曲は広く一般からの公募ではなく、市が設けた市民歌制作検討委員会からの依頼に基づき、特定の人物に委嘱される形が取られた。作詞者には、八戸に深く根ざした郷土作家であり、かつて直木賞の候補にも選ばれた経歴を持つ故・左舘秀之助氏（1924-2017）が指名された。作曲者には、長年にわたり八戸市立湊中学校で音楽教諭として教鞭をとり、特に吹奏楽部の指導を通じて地域の音楽教育に貢献してきた最上哲三氏が選ばれた。「新」という冠詞が付されたのは、行政区域の変更（合併など）を伴わない市民歌の代替わりにおいて、新しい世代の歌であることを明確にするためであり、神奈川県小田原市に存在する「新小田原市民歌」なども同様の例として挙げられる。

この3代目市民歌が制定されてからわずか6年後の2005年（平成17年）、八戸市は隣接する三戸郡南郷村との編入合併を行った。この合併に関する協議の中で、制定から日の浅い3代目市民歌の扱いについても話し合われた。合併を機に市民歌を新しく制定し直すか、あるいは既存の歌を継続するか、という点が論点となったのである。当時、県内の他の自治体では、合併を機に新たな市民歌を制定する動きが見られていた（例えば、青森市は浪岡町との新設合併に伴い、それまでの市民歌を廃止し、新たな歌「大きな朝に」を制定する方針であった）。こうした状況から、八戸市の合併協議においても、「旧市域のために作られた歌であるため、合併形式に関わらず、新たな歌に切り替えるべきではないか」との意見が出された。しかし、八戸市側からは、せっかく作ったばかりの市民歌をわずか数年で廃止することへの強い異論が多数を占めた。議論の結果、市民歌の扱いは「合併後改めて検討する」ことと取り決められた。そして、合併から約1年半後の2006年（平成18年）10月、市民憲章の見直しと合わせて行われた最終的な検討の結果、「従来通りとする」ことが正式に決定され、3代目市民歌は合併後の新しい八戸市においても引き続き市民歌として歌われることになった。この決定には、歌が制定されてからの期間が短かったことや、市民への浸透が始まっていたことなどが影響したと言える。

現在、「新・八戸市民の歌 〜新しい風〜」は、様々な場面で市民生活の中に溶け込んでいる。例えば、市が主催する高齢者向けの生涯学習講座である「鷗盟大学」では、入学式や卒業式といった式典の際に市民歌が斉唱され、多くの高齢者市民が歌に親しむ機会となっている。また、八戸市役所の庁舎内では、毎日午後3時になると、この市民歌のメロディーが時報として流されており、市民にその存在を意識させると同時に、郷土への愛着を育む一助となっている。

「新しい風」という名を冠したこの歌は、八戸市の70周年という節目に生まれ、郷土の文化を担う作家と音楽家の手によって形作られた。そして、市の大きな変化である合併という出来事をも乗り越え、今なお市民に歌い継がれている。この歌は、八戸市の豊かな歴史と、未来へ向かう市民の希望を象徴する大切な存在となっているのである。

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