新古典派
「新古典派」（しんこてんは）という言葉は、使用される分野によって全く異なる意味を持つことがあります。主に経済学と芸術の分野で用いられ、それぞれの文脈で特定の学派や様式、運動を指し示します。この多義性から、言葉の正確な意味合いは文脈を通じて把握する必要があります。
経済学において「新古典派」という語は、大きく二つの異なる時期に登場した学派を指す際に用いられます。
1. 19世紀後期の新古典派経済学（ネオ＝クラシカル派）
これは、19世紀後半にそれまでの古典派経済学の成果を受け継ぎつつ、新たな分析手法を取り入れて確立された学派です。特に、個人の行動原理に「効用」や「限界」といった概念を導入し、市場における需要と供給が均衡するメカニズムを分析するミクロ経済学の基礎を築きました。アダム・スミスやデヴィッド・リカードといった古典派経済学者が社会全体の富の蓄積や分配といったマクロ的な視点を重視したのに対し、新古典派経済学は個々の経済主体（消費者や企業）の合理的な意思決定とその相互作用によって市場価格や取引量がどのように決定されるかに焦点を当てました。アルフレッド・マーシャルによる『経済学原理』は、この学派の集大成とされ、その後の経済学研究に絶大な影響を与えました。この学派は、競争的な市場機構が資源の効率的な配分をもたらすと考え、政府の介入には慎重な姿勢をとる傾向があります。
2. 1970年代以降の新しい古典派（ニュー＝クラシカル派）
これに対し、20世紀後半、特に1970年代以降にマクロ経済学の分野で登場したのが「新しい古典派」と呼ばれる学派です。この学派は、ケインズ経済学などが前提としていた非効率性や市場の硬直性を否定し、マクロ経済においても個々の経済主体が合理的に行動し、市場は価格メカニズムを通じて常に効率的な均衡状態にあるという考え方を基礎とします。特に、将来の予測や政策の効果まで合理的に考慮に入れる「合理的期待形成」の考え方を導入したことで知られます。これにより、予期された政策の効果は限定的または無効であると主張し、政府の裁量的な経済政策の有効性に疑問を投げかけました。ロバート・ルーカスなどがこの学派の中心人物です。
このように、経済学における「新古典派」は、19世紀後期の新古典派経済学と、20世紀後半の新しい古典派という、成立時期も分析対象も異なる二つの主要な学派を指すため、文脈によってどちらを指しているのか、あるいは広義に両者を含む概念として使われているのかを注意深く判断する必要があります。
芸術分野において「新古典派」という語は、一般的に新古典主義（ネオクラシシズム）という芸術運動や様式を指します。これは、主に18世紀後半から19世紀前半にかけてヨーロッパを中心に発展した潮流です。
新古典主義は、それまでのロココ様式の過度な装飾性や享楽的な雰囲気への反動として生まれました。古代ギリシャやローマの芸術、特にポンペイなどの遺跡発掘によって再発見された古典古代の美や理念に理想を見出し、そこへの回帰を目指しました。理性、秩序、均衡、明快さ、そして道徳的な主題を重視したのが特徴です。
美術: 厳格な構図、明確な線描、抑制された色彩、そして神話や歴史、共和制ローマの美徳などを主題とした作品が多く制作されました。ジャック＝ルイ・ダヴィッドなどが代表的な画家として挙げられます。
建築: 古代ギリシャ・ローマ神殿の柱、ペディメント（切妻屋根）、ドームといった要素を取り入れ、対称的で威厳のある、壮大なスタイルが追求されました。都市計画や公共建築にも影響を与え、権威や安定感を表現するのに適した様式と見なされました。
* 音楽: 厳密な形式と構造を重視し、明晰で均衡の取れた響きを目指しました。これは、18世紀後半の「古典派音楽」（ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン初期など）にも見られる特徴ですが、特に20世紀初頭にロマン主義音楽の感情過多や大規模化への反動として、再び古典派の形式や手法を取り入れた「新古典主義音楽」と呼ばれる潮流が生まれました。イーゴリ・ストラヴィンスキーなどがその代表的な作曲家です。
芸術における「新古典派」や「新古典主義」は、特定の歴史的な時代に根差した様式やその復興の動きを指す点で、経済学におけるように異なる時期に成立した複数の学派を区別する用法とは性質が異なります。
「新古典派」という言葉は、このように分野によって指す対象が大きく異なります。経済学においては、19世紀後期のミクロ経済学の基礎を築いた学派と、20世紀後半のマクロ経済学の新しい潮流という二つの学派を指しうるため、どちらの文脈で用いられているかを確認することが不可欠です。一方、芸術分野では、主に18世紀後半から19世紀前半にかけての歴史的な芸術運動である新古典主義、あるいは20世紀の同名の音楽運動を指し、特定の様式や理念への回帰という意味合いが強いです。したがって、この言葉に出会った際には、それが経済学に関する議論なのか、あるいは芸術に関する議論なのか、まずは分野を特定し、さらにその文脈に応じた意味合いを理解することが重要となります。
経済学における新古典派
経済学において「新古典派」という語は、大きく二つの異なる時期に登場した学派を指す際に用いられます。
1. 19世紀後期の新古典派経済学（ネオ＝クラシカル派）
これは、19世紀後半にそれまでの古典派経済学の成果を受け継ぎつつ、新たな分析手法を取り入れて確立された学派です。特に、個人の行動原理に「効用」や「限界」といった概念を導入し、市場における需要と供給が均衡するメカニズムを分析するミクロ経済学の基礎を築きました。アダム・スミスやデヴィッド・リカードといった古典派経済学者が社会全体の富の蓄積や分配といったマクロ的な視点を重視したのに対し、新古典派経済学は個々の経済主体（消費者や企業）の合理的な意思決定とその相互作用によって市場価格や取引量がどのように決定されるかに焦点を当てました。アルフレッド・マーシャルによる『経済学原理』は、この学派の集大成とされ、その後の経済学研究に絶大な影響を与えました。この学派は、競争的な市場機構が資源の効率的な配分をもたらすと考え、政府の介入には慎重な姿勢をとる傾向があります。
2. 1970年代以降の新しい古典派（ニュー＝クラシカル派）
これに対し、20世紀後半、特に1970年代以降にマクロ経済学の分野で登場したのが「新しい古典派」と呼ばれる学派です。この学派は、ケインズ経済学などが前提としていた非効率性や市場の硬直性を否定し、マクロ経済においても個々の経済主体が合理的に行動し、市場は価格メカニズムを通じて常に効率的な均衡状態にあるという考え方を基礎とします。特に、将来の予測や政策の効果まで合理的に考慮に入れる「合理的期待形成」の考え方を導入したことで知られます。これにより、予期された政策の効果は限定的または無効であると主張し、政府の裁量的な経済政策の有効性に疑問を投げかけました。ロバート・ルーカスなどがこの学派の中心人物です。
このように、経済学における「新古典派」は、19世紀後期の新古典派経済学と、20世紀後半の新しい古典派という、成立時期も分析対象も異なる二つの主要な学派を指すため、文脈によってどちらを指しているのか、あるいは広義に両者を含む概念として使われているのかを注意深く判断する必要があります。
芸術における新古典派
芸術分野において「新古典派」という語は、一般的に新古典主義（ネオクラシシズム）という芸術運動や様式を指します。これは、主に18世紀後半から19世紀前半にかけてヨーロッパを中心に発展した潮流です。
新古典主義は、それまでのロココ様式の過度な装飾性や享楽的な雰囲気への反動として生まれました。古代ギリシャやローマの芸術、特にポンペイなどの遺跡発掘によって再発見された古典古代の美や理念に理想を見出し、そこへの回帰を目指しました。理性、秩序、均衡、明快さ、そして道徳的な主題を重視したのが特徴です。
美術: 厳格な構図、明確な線描、抑制された色彩、そして神話や歴史、共和制ローマの美徳などを主題とした作品が多く制作されました。ジャック＝ルイ・ダヴィッドなどが代表的な画家として挙げられます。
建築: 古代ギリシャ・ローマ神殿の柱、ペディメント（切妻屋根）、ドームといった要素を取り入れ、対称的で威厳のある、壮大なスタイルが追求されました。都市計画や公共建築にも影響を与え、権威や安定感を表現するのに適した様式と見なされました。
* 音楽: 厳密な形式と構造を重視し、明晰で均衡の取れた響きを目指しました。これは、18世紀後半の「古典派音楽」（ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン初期など）にも見られる特徴ですが、特に20世紀初頭にロマン主義音楽の感情過多や大規模化への反動として、再び古典派の形式や手法を取り入れた「新古典主義音楽」と呼ばれる潮流が生まれました。イーゴリ・ストラヴィンスキーなどがその代表的な作曲家です。
芸術における「新古典派」や「新古典主義」は、特定の歴史的な時代に根差した様式やその復興の動きを指す点で、経済学におけるように異なる時期に成立した複数の学派を区別する用法とは性質が異なります。
まとめ
「新古典派」という言葉は、このように分野によって指す対象が大きく異なります。経済学においては、19世紀後期のミクロ経済学の基礎を築いた学派と、20世紀後半のマクロ経済学の新しい潮流という二つの学派を指しうるため、どちらの文脈で用いられているかを確認することが不可欠です。一方、芸術分野では、主に18世紀後半から19世紀前半にかけての歴史的な芸術運動である新古典主義、あるいは20世紀の同名の音楽運動を指し、特定の様式や理念への回帰という意味合いが強いです。したがって、この言葉に出会った際には、それが経済学に関する議論なのか、あるいは芸術に関する議論なのか、まずは分野を特定し、さらにその文脈に応じた意味合いを理解することが重要となります。
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